矢吹

くすぶりの狂騒曲の矢吹のレビュー・感想・評価

くすぶりの狂騒曲(2024年製作の映画)
3.9
M-1を目指した男たちの軌跡。
その道は決してM-1で途切れるもんじゃない。
こうして、大宮セブンという役満が、国士無双が完成していく。

初っ端の、暗い画面の中で、ぶつぶつ、ぶつぶつ、男が2人。壁に向かってなんか囁き合ってる、異常な感じ。
ネタ合わせのシーン。こうみると、
とんでもなく奇妙な演芸。お笑い。

お笑いをテーマにした映画やドラマは、最近なにかと、よくあるじゃないですか、昔からもあるけど、とにかく近年はお笑いが、創作物にとどまらず人の裏側まで感動込みでドラマチックにされることが流行ってるのもあって、お笑いというものを、カッコよく描かれる作品が多いと思うんですけど、
この作品は、全体通して、ちゃんと、お笑いってものを、奇天烈で、変態で、おかしいものとして映し出される。
ただそれ故に、めっちゃカッコいいっす。

誰のためにやってるんですか。に対して、
自分ら。自分らが笑う。
自信を持って出来る選択を。
客はそれについてくる。そういうもんだ。
あわや反感すらも買いそうな、ここまで振り切ったテーマでお笑いを描き切れるのは、そこにいるのがフィクションのお笑い芸人じゃなくて、事実、現実、こんなにも鮮やかに世間を逆転させた大宮セブンを取り扱っているから。安心して見ていられる。
なんの文句もあろうはずがない。

主演のタモンズさんにとどまらず、
みんなめちゃくちゃクオリティ高い。
似てるとか、モノマネとかじゃなくて、
同じタイプの人間を連れてきている感じだった。
同じ種類のそういう人が、彼らの人生や動きをなぞっている。
特に、引きの映像のマジカルラブリーさんがマジカルラブリーさんすぎて、逆にカメラが寄ったら、顔が違う人で、でも声と仕草は野田クリスタルさんで、脳がバグった。

根建さんも、脳バグものでしたし、
あの明るくてずっとお笑いを優先してるのがマジの普段の感じなのかな、なんだろうな、
かなりありがたい。
実話のエピソードならなにより、めっちゃ物語のスパイスになっている。芸人の世界とは、常にこうであるべきとも言うような。流石におかしすぎるけど。
脱ぐ流れとかも、良いですよね。
あのマインドで、全ての世の中があっていい。面白かったらいいじゃないと、最終的に、みんなで何があっても、面白い。で許容しとく部分を残しておく文化。というか。
これは「全人類芸人化計画」の一部の話になっていくので、また今度。

それと、岡田義徳さんと和田正人さんの、安定感。が支わってる。
そして、岡田さんのキャラクターが一応、映画オリジナルの芸人なんだけど、そもそもそれも物語だから全然いい上で、さらに多分、
別に、なんというか、
架空の人ってわけではないじゃん。
タモンズさん、大宮セブンの皆様がここに至るまでに、一緒にやってきて辞めていった仲間たちももちろんたくさんいるわけだから。
その人たちの具現化なんだ。でもいいと思ったし、売れるため、ウケるため、やりたいことをやるのか、寄せるのか、そういう苦悩はそこら中にあったし、あるし。

そんな、わけわかんない世界の中で、
あなたは面白い、お前らは大丈夫って、言われたい。
言ってもらえるだけで、アホみたいに頑張れる。
結局、お笑いなんて、なんかバカをやってるなってのを、笑ってもらう、でいいからさ。
この世の中で、生きてる人間は、みんな、自分を信じて進んでください。

高校生から2人でずっと一緒に何十年も、って。
よく考えたらこれも結構気持ち悪いもんな。
お笑いの特殊性でもある、音楽もあるか。
仕事のパートナーというより、相方。
1人、野球の応援歌を聞いていた男と、1人、貧乏な夏の蝉の声を聞いていた男の、2人で行き着く先、耳にするものは、満天のお客様たちの笑い声に、感動的に変わったりするのかなと、思いきや、
たどり着いたその声は、
舞台袖にいる、仲間たちの馬鹿騒ぎ。
そう考えると、今めっちゃウケてますよって言う客席が笑ってるシーンも、なかなか少なかった気がする。すごい。

ほんで、音楽がめっちゃいい。
冒頭の、重低音と口笛と、変な男たち。
スタイリッシュな演出に、間違いのない激アツ展開。
大宮という地を駆け抜ける上からワンカット。
コンビニも、めっちゃ上から撮ってた。
路上ライブと、路挟みダッシュライブ。
お前とお笑いやりたいんやからの、
爽快な音楽と、始まるM-1グランプリ。
あの子が演奏してくれた曲もとても良かったし。

の流れで、曲と言ったらね、ついに、最後に、狂騒曲、の意味がより深く刺さる。
何やってんねんこの人たち。
狂騒も甚だしいほどの狂騒。
でも、人生をかけていて、家族も支えて支えられて。
さらに、配信を作ってくれた、支配人のかた。
満席の劇場と、外の配信と、繋がる生活。
あくまで、芸で、ステージで、お客さまありきどころか、お客で、やめてもお客で、スタッフさんも、みんなが働いて、タモンズさん意外の勝負もあって。
彼らを俯瞰から見ることで、さらに、いろんな人の生活がめっちゃ豊かに広がっていく。

すみませんじゃなくて、
いつか笑いになるまでやればいい。
いいエピソードができましたね。の理論も、超大切な考え方。それじゃどうしようもないこともあるけど、あとは、
いつか映画になるまでやればいい。
のかもしれない。
矢吹

矢吹