2024.10.26
予告を見て気になった作品。
伊藤万理華×中川大志。
等身大の女性のリアルをつむぐ映画シリーズ「ノットヒロインムービーズ」の第4弾。
脚本協力に『ドライブ・マイ・カー』の大江崇允が名を連ねる。
とあるデザイン事務所に出入りするようになったフリーのデザイナー・チャチャ。
野良猫のように生きたいように生きているチャチャの言動に対し、周囲の評判は芳しくない。
そんなチャチャがある日屋上の喫煙所で出会った、彼女と同じように野良猫のような雰囲気を放つ青年・樂。
樂はチャチャが出入りするデザイン事務所と同じビルに入っている飲食店の店員で、彼が落とした鍵をチャチャが拾ったことをきっかけに、決して飼おうとは思わないけど愛らしく見えてしまう野良猫を愛でるように、関係を深めていく。
互いに足りないところを補い合い、二人で一つの世界を完成させようとするチャチャだったが、樂には野良猫のような様子とは全く違うもう一つの顔があったー。
血っておまそれ、トガヒミコじゃん……トガヒミコじゃん!!
“個性”もヒーローもヴィランもない世界に住むトガヒミコのようなチャチャを中心とした物語、その語り手はそこら中に。
それは樂であったりデザイン事務所の同僚・凛さんであったりひまわりであったり、突然入り込んできた、“落とす肩のない”電柱さんだったり。
チャチャと樂の、野良猫同士の付かず離れずな関係性以外にも、妻子持ちの社長に密かな恋心を抱く凛さんや、突然恋人の護と離れ離れになってしまったピオニーなど、様々な登場人物たちが物語を紡いでいく。
「ノットヒロインムービー」も第4弾まできて、等身大の女性を描くブランドがほぼ確立したなと思い、中盤までは何の気もなく観ていられましたが、まさか途中から血の出るヒヤヒヤスリラーになるとは。
こりゃあ今後同じシリーズの作品がきても油断できませんね。
まずはやはりなんと言っても伊藤万理華演じるチャチャですかね〜、かわいい、あざとい?そんなの関係ない可愛いもんは可愛いんだ。
ノットヒロインに相応しく、いい意味でヒロインらしくなく、でもさすが元乃木坂な透明感と愛嬌たっぷりで、樂だったからいいものをあんな可愛い子が近くにいたらついつい可愛がりたくなってしまう、同性からの評判はよろしくなさそうですが。
野良猫のように振り向いてくれなかったり急に懐いてきたり、そんな彼女が出会った、同じような雰囲気の樂、可愛がろうとしても、期待している反応はなかなか返ってこない。
でも樂もまた野良猫なチャチャを受け入れてくれて、誰にも共感してもらえない自分の癖も告白できた彼女。
それまで知らなかった樂の本性も、一時は受け入れるチャチャ、そうかこれが、『フォリ・ア・ドゥ』(二人狂い)か……。
中川大志の樂もよかったですね。
鍵やら皿やら色々と落としちゃうような抜けている人物かと思いきや、オシャレな料理は作れるし、外観からは考えられないほど室内のインテリアがいちいちオシャレだし。
これが沼男ッて奴か、いやしかしノットヒロインムービーならクズ男が必要なのではと思ったところで、本性はクズ男をはるかに凌駕する狂気。
塩野瑛久演じる護にダメ男成分を分けつつも、そんなダメ男な護に樂の狂気が向けられるものだから、凛さんが妄想したBLとはまた違う形で感情を揺さぶらせる男同士の関係性が描かれていました。
イケメン俳優がキュンキュン系男子役で経験を積んだ後、実力派俳優へと踏み出すために通るのがシニカルでダークな役。
序盤はチャチャを沼らせる野良猫系男子な表情を見せていましたが、まさか表情は同じまま、内に秘める感情をピロニーの瞳に魅了された忠犬系へと転換させていくとは。
今後の活躍がますます期待できそうです。
樂や護以外にも、チャチャの野良猫みたいなあざとい言動に一喜一憂する男たちばかりではなく、日毎に違う一種類の食べ物をひたすら食べ続ける社長や職場の人間関係に対して的外れな妄想をする同僚など、やはり魅力的なヒロインを描くにはそれだけ男のキャラクターも大事になりますよねって。
酒井監督の直近の作品では、脚本が違う方だったり共同で担当する方の経験が不足したりしていましたが、今作はクレジット上は単独脚本で、脚本協力に大江崇允がいたものだから、キャラクター同士の会話の内容も、坂元裕二脚本のようなどこから出てくるんだそんな言葉って感じのものというより、誰でも使えそうな言葉を使って独特なものにしていたように感じました。