HAYATO

グランメゾン・パリのHAYATOのレビュー・感想・評価

グランメゾン・パリ(2024年製作の映画)
4.1
2024年444本目 映画納め
La cuisine n'a pas de frontières.
木村拓哉主演のテレビドラマ『グランメゾン東京』(2019)の続編となる劇場版
レストラン「グランメゾン東京」が三つ星を獲得してから時が過ぎ、尾花夏樹と早見倫子は、フランス料理の本場パリに新店舗「グランメゾン・パリ」を立ち上げ、アジア人初となるミシュラン三つ星獲得を目指して日々奮闘していた。異国の地のシェフにとっては満足のいく食材を手に入れることすら難しく、結果を出せない日々が続いていたある日、ガラディナーでの失態が原因で、尾花はかつての師と「次のミシュランで三つ星を獲れなければ、店を辞めフランスから出ていく」という約束をしてしまい…。
木村拓哉、鈴木京香、沢村一樹、玉森裕太、及川光博、冨永愛、中村アンらテレビドラマのキャストが再結集するほか、韓国のアイドルグループ「2PM」のオク・テギョン、アイドルグループ「Aぇ! group」の正門良規が新キャストとして参加。『ラストマイル』の塚原あゆ子が監督、『キングダム』シリーズの黒岩勉が脚本を務め、2020年にアジア人としてフランスのレストランで初の三つ星を獲得した小林圭シェフが料理監修を担当した。
本作の中心的なテーマは、「伝統を守ること」と「伝統を壊すこと」という相反する命題の融合。尾花夏樹が最後に提供するコース料理は、フランス料理の厳格な伝統を尊重しながらも、それを再構築することで新たな可能性を提示した。伝統的なフレンチである「ピティヴィエ」をアレンジし、鳩、フォアグラ、豚などを層状に詰めたパイを目の前で切り分け、見た目や香り、音まで楽しめる演出を加えた料理は、伝統を基盤に新しい可能性を切り拓いた一品だった。本作が伝える「フランス料理の本質は固定観念を壊し、新たに構築すること」というメッセージは、フランス文化全体にも通じており、フランスの哲学や芸術が常に変革と再構築を繰り返してきたように、グランメゾン・パリは料理の世界でもその精神を体現したと言える。
本作には、新旧キャラクターの多様な視点が盛り込まれている。韓国人パティシエのユアンは、フランス料理という舞台において「外部者」としての挑戦を象徴する。彼が尾花や倫子との対話を通じて、自身のアイデンティティや料理哲学を深めていく姿は、本作のテーマである「多様性」と「革新」の一端を担っている。一方で、新キャラクターである小暮の描写は不足しており、芹田の代役以上の存在感を示すには至っていない。また、東京メンバーが映画内でわずかな登場にとどまった点も、その分スペシャルドラマで補完されていたとはいえ物足りなさを感じる部分もある。
本作は、ドラマシリーズの延長として、師弟関係やチームの成長、フランス料理界での挑戦といったテーマを引き継いでいる。その構造は、スポーツ映画のような「敗北からの再起」を思わせるもので、尾花が一度孤立し、再びチームと協力して成功を収める展開はカタルシスを与える構造として機能している。ただ、117分という尺の中で、個々のキャラクターの背景を深く掘り下げる余裕はなく、あくまでドラマファン向けのご馳走という感じがした。
塚原あゆ子監督による繊細な演出は、料理の美しさやキッチンの臨場感を際立たせている。特に、調理シーンは、五感で楽しむフランス料理の魅力を伝えることに成功しており、まるでASMRのような心地よさを味わうことができる。また、黒岩勉さんによる脚本は、料理に哲学的なテーマを織り込みながら、各キャラクターの成長や関係性を描き、巧みにバランスを取っている。
大仏みたいな「3」の手で笑った。
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