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SUPER HAPPY FOREVERのKKのレビュー・感想・評価

SUPER HAPPY FOREVER(2024年製作の映画)
4.2
ひじょーーーーに幸せな映画だった。
"淡さ"を狙ってるのかと思いきやに間を恐れて全部説明してくれちゃう最近のドラマ達(あれのどこがsilentなの?)に飽き飽きしてたんだけど、じゃその対になるような邦画があるのかと言われたらそれこそ北野武ぐらいまでいかないとって感じだったので、ようやく映画らしい映画でひねらずに"淡さ"を表現した作品に出会えた。多くは語らせずにロングショットの背中とバストショットの曖昧さに委ねて"喪失"を描く良質なシンプルを観れるこの多幸感...!

舞台は伊豆の海辺のホテル。5年前に妻を亡くして自暴自棄になっている男とその友人の他愛もない休暇が波の音とかすかな死の匂いのなかでずっと続くんだけど、ある瞬間、現在(2023)から過去(2018)にシームレスにパンする。この時間超越。どこかで観たなと思ったら『ライフ・イズ・ビューティフル』『ニューシネマパラダイス』のイタリア映画作品である。映画の魔法を感じられて↑の二本の初見時には思わず涙ぐんでしまった大好きな手法。それがうまいこと邦画的喪失エッセンスの上に乗っかっててお見事としか言いようがなかった。

そしてその瞬間に主体と客体の転倒が起きて、被写体が男から女へと切り替わるのがまた良き。5年前と現在を比較して、やっぱり世の空気感はどこか変わってしまっている。猫のように気ままな凪の伸び伸びとした佇まいをただ追っていたいのに、どうしても「コロナが流行る前はなんだかんだ幸せな世の中だったのかなあ...」という雑念が入る。多分監督は意図的にそう仕向けているだろう。海辺のリゾート地という年季の見えにくいロケーションだからこそ、その喪失を人間同士の距離感をとおして思い知らされる巧妙な作り。凪の存在はまさにコロナ禍が奪い去ってしまったなにかの仄めかしであり、そんな凪とそこで出会ってしまった男の喪失に似たものを僕も知っているのだ。

全部スマホが解決しちゃうだろ問題もバカンス映画で忘れっぽいヒロインが家に置いてきちゃったことにすればもうおさらばである。そんなヒロインのふわっとした空気感がマジでこの作品の淡い色味とマッチしてた。

深夜コンビニカップラーメンは少しあざとすぎるかなあと思ったけど、まあ思い出の描写があざとくてもいい映画ではある。そういうのを受け手がすぐにあざといと思ってしまうようになったからちょっと前までの邦画は頭打ちだったのかもしれないし。そういうわざとらしいことをあえてやるようになった部分に今年の邦画フィーバーのカギがあったりして。

今年の邦画を三本選ぶとしたら『夜明けのすべて』『悪は存在しない』とこれ。そのくらい良かった。
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