このレビューはネタバレを含みます
「本心」で書いていくレビュー
「シン・アバター」
『本心』 (2024)
🇯🇵日本 122分
●レビュー
平野啓一郎の小説(未読)の映画化
平野氏の小説の映画化は、石川慶監督の『ある男』(2022)で、見事に達成されているが、この石井裕也監督の『本心』(2024)も甲乙つけがたい、傑作と相成っていると思う
今回は、SF的題材であるので、石井裕也監督に、より、向いていたのかも知れない
兎に角、重厚で啓示的な小説を、的確に、そして、豊穣に映像化することご出来うる、石井裕也と石川慶の成熟に、日本映画は寿(ことほ)んでいる
石井裕也の世界観に関しては、『月』(2023)を鑑賞すれば、分かるのだが、あの月は異様に美しく、冴え渡っていて、怖いくらいである そして、芸術性の高い人形劇の挿入、現実と架空が、秩序を保ちながらも混在して行く感覚であり、
彼の作家性でもあろう
本作、『本心』に於いても、現実、アバター、VR(バーチャル・リアリティ)などの映像が、秩序あるように入り交じり、黒猫のアニメ空間が胸に染み入り、前作『月』の世界観に近似している、作家性の完成
『月』が美しかったように、『本心』に於ける病床を流れる、四季折々の木々の風景は現実離れしているように、煌めいている
そして、画面の全ての登場人物たちか、VRであり、消え失せてしまい、後から、そのVRのプログラマーである野崎(妻夫木聡)がひとり登場する場面は、重要だと思う
そう、映画『本心』を深く理解する為には、この世の中が、あるプログラムでスーパーコンピューター内に作られた、VRに過ぎないという、「VR仮説」、「シミュレーション仮説」を石井監督が、強く意識している点を、読み取らねば成らない
もし、この地球、この世界が、全てVRであるのなら、この世の中の登場人物は、全て、等しく記号、アバターである
目元以外が超美人な、田中裕子の配役の妙、儚げで、時にしてハッとするような美人であり、恐ろしくもある
また、三吉彩花のアンドロイドのような完璧な美も、触れるるようで、触れ得ない謎めいた妖艶さで、まさに黒猫たるアバターに相応しき人物造形であった
学歴格差社会なのか、上級国民の選民化も進んでおり、Uber Eatsを彷彿とさせる、リアル・アバターたちの奴隷化、残酷物語、そこには、日本の四季折々とか、細やかな心遣いとかの美徳が、完全に失われていて、劣化の一途を辿っている
また、アバターであるハズの母が、AI (これもアバターの一種、アバターの作ったアバター)により、変化(へんげ)して行く様は、ある意味、妖怪的であり、怖いと同時に、鳥肌が立つ
VR仮説に立つならば、人類は所詮、アバターなのだから、独立独歩で、自分のアタマで考えて、他のアバター(AIとか)に作用されずに、五感を研ぎ澄まして、
色々なものを実感して、生きていくしかないのてしょう!
それが、あのラストシーンの、白い腕なのです
各俳優たちの名演と共に、石井裕也の冴え渡った演出をオイラ🐱(←アバターのアバターw)も、寿ぎたい
●キャスト
池松壮亮
(石川朔也)
三吉彩花
(三好彩花 朔也の母の友人)
田中裕子
(石川秋子 朔也の母)
妻夫木聡
(野崎 VR技術者)
水上恒司
(岸谷)
中野太賀
(イフィー)
田中泯
(若松)
綾野剛
(中尾)
●スタッフ
原作
平野啓一郎 (小説『本心』)
監督・脚本
石井裕也
音楽
Inyoung Park
河野丈洋
撮影監督
浜田穀
照明
三善章誉
美術
高橋努
編集
シルヴィー・ラジェ
普嶋信一
UCキャナルシティ13
スクリーン1 (お遍路済み)
2024ー98ー79