子供の頃から空想が好きだったエフィ・フォン・ブリースト(ハンナ・シグラ)は活発な女性であるが、ある日地元の名士である20歳も年上のヘルト・フォン・インシュテッテン男爵(ヴォルフガング・シェンク)に求婚され、彼の妻になる。最高の調度品しか求めないブリーストの崇高な気品。夫との生活に不安はありながらも両親は彼女を温かく送り出すのだった。だがしかし、インシュテッテン家には意地悪な家政婦ヨハンナ(イルム・ヘルマン)がいた。ビスマルク時代の閉鎖的で抑圧的なプロイセン社会を舞台に、この映画は、頑固で全く容赦のない社会的行動規範と完全に結びついた女性の運命を描いている。物語は魅力的な兵士と短い情事を結ぶことで、はるかに年上の男性との息苦しい結婚生活から逃れようとする若い女性、エフィ・ブリーストの物語である。6年後、エフィの夫は彼女の情事に気づき、悲劇的な結末を迎える。
まだ29歳だったライナー・ヴェルナー・ファスビンダーが手掛けた文芸大作は74年製作のモノクロ映画で、まるでダグラス・サークのメロドラマのようである。彼女たちはこの街で唯一の上流階級であり、他の中流の人々とは会話することすら許されない。薬剤師ギーシュブラー(ハーク・ボーム)という親友だけが頼りだ。夜寝る時に見る幽霊の恐怖はブリ―ストの不安のメタファーであり、ある種貴族が彼女を雁字搦めにするための方便だった。今作はブリーストとクランパス少佐(ウリ・ロンメル)との間に何が起きたのかを一切明らかにしようとしない。愛欲の描写はメロドラマとして巧妙にフレームから外され、それ故にかえってインシュテッテン男爵の束縛の色を強くする。ファスビンダーは19世紀の名誉の規範がいかにして人の人生を束縛し、破滅させるかをこれでもかと描いた。74年の『エフィ・ブリースト』と『自由の暴力』とは連作であり、ジェンダーの逆転はあれど、そこで起きている悲劇はほとんど同じで、正にコインの裏表のような関係にあると言える。