針

エフィ・ブリースト デジタルリマスター版の針のレビュー・感想・評価

3.0
「ファスビンダー傑作選2024」で観させていただきました。
こちらはモノクロで綴られる、19世紀ヨーロッパの若き女性を主人公にした結婚残酷物語。
むかし母親の若い燕候補だった年嵩の男性と結婚したエフィは、案の上結婚生活を鬱々として愉しまず、ちょっくら道を踏み外す……けどこの時代の女性に家庭以外の人生というのは許されていなくて……というお話。

ただ自分的には正直、わるい意味での文芸映画みたいに感じてしまったかな……。通して観るのがキビしくて、最初から最後までちゃんと目を開けてたと言うと嘘になります……😪 もっともこれは自分側の問題かもしれないけど。

○ファスビンダーの監督作としてはわりとスタイルが独特?
・明転暗転でシーンが頻繁に切り替わり、そのあいまに真っ白な画面をバックに人生の格言的なものが差し挟まれる。
・シーンはよく切り替わるんだけどワンショットは長めで、あれこれ演技してる役者とその会話をじっくり撮ってくタイプ。同日に観た『リリー・マルレーン』とか、『マリア・ブラウンの結婚』はもっとバサバサ切ってたはず。逆に『不安は魂を食いつくす』とか『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』はじっくりタイプだった記憶があるんだけど、この映画はそれらともちょっと違うような……
・テンポが非常にまーったりしていて、この時間感覚が何とも古風、というか文学を映画に移植したものっぽいなーという気がしました📚(それは偏見か?)アクション調のシーンもないし、体感時間が変動する箇所もほとんど無くてずっと一定? 好きな方は好きだろうけど自分はちょっと耐えられず……🤤

○合間の格言+ナレーション+長ゼリフがちょっと生硬かな……。特に決闘に向かうエフィの夫が友人に語る持論のセリフとかは抽象的すぎて、これは原作の文章をそのまま持ってきた気がするんだけど流石に……。小説だったら全部文章で出来てるから、地の文の工夫次第でテンポやリズムもコントロールできるし、そもそも長ゼリフが「現実」よりも違和感のない媒体な気がするんだけど。ふつうの映画よりずっと多い言葉群がうまく映像に取り込まれてるかというと正直微妙な気はしてしまったなぁ……。

○終盤はけっこう面白くて、自由な生き方を選べないエフィが結婚の「失敗」の果てにたどり着く場所はファスビンダーらしく身も蓋もなき悲惨さ……😂 夫に仕込まれてエフィに冷たい態度しか取らない娘と、その傍らのエフィをちょっと遠目から淡々と映すシーンのいたたまれなさが一番印象的でした。

○ファスビンダー映画の常連らしい、ハーク・ボームというメガネをかけた男性の役者が今回もよくて、田舎の村でのエフィ=ハンナ・シグラとの淡い友情みたいな関係のゆるやかさが好き。それと今作はワンショットが比較的長めで、演技をみっちり撮る感じのテンポだったのでハンナ・シグラはじっくり観れて、他の映画よりいいなーと思いました。

○19世紀のやや上流階級を舞台にしたこの作品がおもしろいかっつうと、自分は20世紀俗世間を描いた他のやつの方がファスビンダーのお家芸感があっていいかなと。逆に言うと別の時代を舞台取ったこれを観ることで、作り手の骨絡みのテーマみたいなものがよく分かる気もしました。社会対個人の対立の中で、有形無形の暴力と抑圧によって個人が敗北もしくは死亡していく過程を、自我が強めの人間たちのやや大仰でありふれた物語として構成する、というのが現状一番強いイメージ☹️  もちろん(?)結婚も、「愛」の率直な実現などではなく、個人の意識を根底から定めてしまう一種の枷のようなものとして作用してることが多い気がします……
針