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リリー・マルレーン 4K デジタルリマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 今年のライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選の3本はどれも期待に違わぬ傑作で、そのうちの2本は今回改めて再見して、これまで私が観て来た30本にも及ぶ彼の監督作の中ではこれが代表作だと断言しても良い。そのくらいの傑作である。スイスでは、ヴィリー(ハンナ・シグラ)という名のドイツ人歌手志望者が、ユダヤ人の訓練生指揮者ロバート(ジャンカルロ・ジャンニーニ)と恋に落ちている。彼の家族は、ユダヤ人とその富が中立国スイスで安全に暮らせるようにする秘密結社の一員である。ロバートがドイツ人女性と関係を持つことでネットワークが危険にさらされるかもしれないと恐れた彼の裕福な父親は、彼女を国外追放する。ドイツに戻ったウィリーは、ナチスの高官ヘンケル(カール=ハインツ・フォン・ハッセル)の保護下に入り、たちまち出世していく。彼女の歌「リリー・マルレーン」ははたまた軍のお気に入りとなり、軍隊を鼓舞するプロパガンダ的に使用される。やがて彼女は裕福になりロバートは偽名を使ってドイツに入り、彼女を秘密結社に引き入れようとする。

 今作は戦後生まれのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーのナチス総括に他ならない。戦争が終わると、ヴィリーはスイスに入国することが出来、そこでロバートの初めてのコンサートに出席できて喜ぶが、二人のロマンスは既に破綻を迎えている。第三帝国時代を舞台にしたこの映画は、ラーレ・アンデルセンをモデルとした国民的スターとなるドイツ人歌手と、ロルフ・リーバーマンをモデルとした、ユダヤ人同胞の救済に尽力するスイス人指揮者との恋愛を描いている。脚本はラーレ・アンデルセンの自伝的小説『天には多彩がある』を使用しているが、彼女の最後の夫であるアーサー・ボイルは、この映画は彼女の実生活とほとんど関係がないとも言う。何度も繰り返される「リリー・マルレーン」の狂熱と繰り返される砲撃の場面とのモンタージュが凄まじい。ディーヴァとして認められながらスパイ行為が発覚し、一転してヒトラー政権により無理矢理歌わされた「リリー・マルレーン」の裏には鉤十字とヒトラーの巧妙なプロパガンダがあり、多くの若者がその命を散らした。個人的にはハンナ・シグラはやはり、『エフィ・ブリ―スト』よりも『リリー・マルレーン』のヴィリー役こそが当たり役だったと思う。
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