特にやりたいことも夢もなかった高校3年の唯野空(池田朱那)は、将来への保険として大学進学の道を選び、同時に奨学金という名の借金を背負った。大学進学後、親との確執もあり、実家に居心地の悪さを感じ始めた空は、彼氏の蛭間拓人(簡秀吉)の提案で同棲することに。奨学金の返済に加え、生活費が嵩み、普通にバイトをして稼いでも奨学金の返済はアラフォーまで続く。空はそんな現実から逃れようと、大学で知り合った異色な同期・九頭竜レイ(吉田凜音)と水江聡太(田淵累生)の影響を受け、とあるアルバイトを始めることになる。一口に奨学金などと銘打っているが、返済不要の「支給型」の割合は僅か数パーセントに過ぎない。実際は独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)や民間団体などが提供するサービスで、その殆どは卒業後に10数年掛けて返済する「貸付型」となっている。この貸付型には2種類あり第一種は無利子だが、第二種は有利子である。1年の夏に審査を受けてから支給が始まり、学生生活には助かるが実は、社会人になってから約20年間、返済し続けなければならない。
これが毎年、諸々の税金が必要となる若い世代にはあまりにも重い負担なのは言うまでもない。社会にスタートした時点で数百万円の借金を背負い、まともな会社には入れればある程度楽だが現実は厳しい。なるせゆうせい監督のシリアスなタッチはどこかの省庁のお堅いPR映像にも見えるほど若者たちの生き辛さに迫るのだが、これが今一つ真に迫らないのは、ヒロインがパパ活女子であることに尽きる。先日、頂き女子りりちゃんの刑期(懲役9年・罰金800万円)に対し、女子高生コンクリート殺人の主犯以外の少年たちの刑期がりりちゃんよりも低いことに絶句するツイートが話題に挙がったが、少年法に守られていた時代の法の裁きというのはあくまでも加害者側に甘い。ここ30年の物価の高騰と鑑みても、奨学金の値段に殆ど変動はない。となれば学生時代に手っ取り早くというヒロインの焦燥はわかるのだが、汗水垂らして必死に働けなければ、大きな代償を喰らう。大切な母親を演じたのが遠山景織子だという事実にも驚いたが、病床に伏せる母親にろくに会いにも行かず、パパ活を続けるヒロインの姿にはまったく共感が出来なかった。因果応報のプロットは第一希望だった企業面接の悲劇を伝えるが、結局勧善懲悪のように見せようとするラストにも何かスカッとしないモヤモヤとした感慨を抱いた。