ワンコ

正体のワンコのレビュー・感想・評価

正体(2024年製作の映画)
4.5
【考えなくてはならないこと】

原作「正体」は文庫本で600ページを超える長さで、主人公に気持ちを寄せる人物たちの描写は丁寧に描かれていて、それが逆に冤罪の果ての悲劇を予想させて切ない気持ちになる。

この映画「正体」は、要所要所は小説と一緒だが、登場人物の為人(ひととなり)はコンパクトになっていて、良い表現は見つからないが見やすくなっている思う。

「正体」は、映画の予告映像が流れた時点で想像がつく通り、特別少年犯罪の死刑判決と冤罪を組み合わせたものだ。

途中、「久間(ひさま)」と云う名前が出て来るけれども、これは福岡飯塚事件の久間(くま)元死刑囚を意識したものだと思う。
久間元死刑囚の刑は執行されてしまったが、引き続き一部の弁護士が冤罪を主張して再審請求をしている事件だ。
もし、この再審が叶い、万が一にでも冤罪になってしまったら、日本の司法の在り方や死刑制度の在り方も揺るがす事態になるだろう。
袴田さんの事件で既に批判が多いが、G7の国で死刑を維持しているのはアメリカと日本だけで、アメリカは一部の州では既に死刑制度を禁止している。

個人的には、死刑制度とは云え国家が人を殺して良いのかという疑問はあるし、裁判員裁判制度で死刑を下し、最終的に高裁や最高裁で審理されて死刑判決が決まり、執行されて、もし冤罪だったら、その裁判員だった人は自戒の念に堪えられるのだろうかとも思う。

(以下ネタバレ)

小説は、これにダイレクトに切り込んだもので、実は救いがない。

映画は救いがあるけれども、実は死刑制度云々まで考える機会があるかどうかは分からない。

それに、小説でもそうだったが、こうした犯罪が本当にあったらと仮定しても、法務大臣は容易に執行の判を押さないと思う。

こんなところは減点しました。でも、映画としてはハラハラもして面白いけどね。
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