2000年代に「世界ウルルン滞在記」という番組があった。都市文明から離れたところにある部族だとか、過疎化の進む村などの世界各地へ、売り出し中の若い俳優がホームステイし、土地の人々と家族のように交流を深め、数週間を過ごして去って行く。文明の香りを持つ人懐っこい若者に、土地の人々は夢中になり、価値観やその人生そのものが変わってしまうこともあるみたいだった。訪れた若者にとってはあくまでも仕事であり、「良い思い出」に過ぎないのに。
人気のある番組で、私も最初は感動して泣いたりしながら観ていたけど、そのうちどうしようもない不均衡が気になり出した。今検索しても出てこないけど、当時は批判もけっこうあったと思う。
なぜこんなことを長々と書いているかというと、パブロと出会ったことで詩を通して世界を知ったマリオが、パブロとの別れによってまた無気力になる、その姿にウルルンを思い出してしまったから。だから、前半はあれー?これって名作のはずなんだけど、今ひとつ乗れないな、と思っていた。
しかし、この映画の魅力は終盤のたたみかけにあった。マリオはパブロとの別れを経て、パブロから与えられたものを自らの生きる力とする。反面、皮肉な運命にも遭遇することになる。そうであっても、マリオの人生はパブロとの出会いによって輝いた。あの海や、星空や、風たちのように、生活と地続きの厳しさを内包した美しさに輝いた。
マリオを回想するパブロの胸中は、私には想像がつかない。どこか後悔のようなものも感じていたりするのかもしれない。そう考えると辛い。でも、そんなところが人生ぽいなと思った。その時には、もうウルルンのことは頭から消えていた。