【映画とはほぼ関係ない内容になっています】
特集上映『ベット・ゴードン エンプティ・ニューヨーク』にて長編『ヴァラエティ』のみ見ました。
本作を見ようと思ったのは脚本がキャシー・アッカーだと知って。
しかしキャシー・アッカーと言っても日本では知ってる人も少ないと思う。
代表作と言える『血みどろ臓物ハイスクール』のみ河出文庫で最近復刊したけど邦訳された数少ない他の作品は全て絶版。
キャシー・アッカーの小説のビジュアルイメージとして浮かぶのは写真家・美術家のシンディ・シャーマンの作品。
90年代に東京都現代美術館で大規模な展覧会があり丁度キャシー・アッカー初めての邦訳『血みどろ臓物ハイスクール』を読み正にこれを映像化したらシャーマンの一連のポートレイトシリーズみたいだと思った。
「架空の映画のワンシーンを切り取ったポートレイト『Untitled Film Stills』続いてシャーマンは『Fairy Tales』シリーズに着手、これは童話の主人公に自らが扮しながら、登場人物の醜い傷や義肢を強調して、童話にひそむ暴力性や固定的なジェンダー規範に目を向けさせようと試みる[5]。こうした試みは、続く作品でも継続し、シャーマンがラファエロやミケランジェロといった西洋美術史上の著名画家に扮した肖像画シリーズにまとめられた。こうしたシリーズの過程で、シャーマンは、一般には醜く嫌悪感を抱かせるとされるグロテスクな対象を好んで撮影するようになってゆき、家庭の残飯や腐敗した食べもの、道路上に散らばる嘔吐物、壊れた性的玩具といったものを鮮やかな色彩で撮影し、作品として展示した」(Wikipediaより)
シンディ・シャーマン唯一の映画作品『オフィスキラー』はB級スラッシャー映画の現代美術的解釈とオマージュの様な作品で、御局様OLがセクハラ上司や意地悪同僚を殺しまくるという最高な内容なれど矢張り写真と映画は違う才能というか批評的にも興行的にも失敗、シャーマンの映画はこれ一本で終わったのでした。
血みどろの肉片や腐乱死体を使った美術描写は正にシャーマンの美術写真の世界だったので、もしキャシー・アッカー脚本シンディ・シャーマン監督によるキャシー・アッカー小説の映画化なんて事が実現していたら、安部公房原作脚本✖️勅使川原宏のコラボレーション映画みたいになってたかも?何て事を思ったのでした。
キャシー・アッカーは前衛実験小説家でありパンク詩人、自らをセックスポジティブフェミニストと名乗り男とも女とも寝ると嘯きボディビルで鍛えた肉体には刺青、短く刈り上げた金髪にグラサン革ジャンというスタイルで大型ハーレーバイクを颯爽と乗り回し自らのキャラクターやその生き方すら「売り」にする事も厭わず死後数十年が過ぎた今も世界的カルト作家である。
享年50歳。
余りに早く呆気なく死んでしまいこの偉大なる女性作家は伝説の中に。
そのキャシー・アッカーが多大なる影響を受け師匠とも言える存在がウィリアム・S・バロウズでありアッカーは《女バロウズ》何て呼ばれていた。
因みに同時代のハードゲイ幻想文学の作家デニス・クーパーは《男アッカー》とか呼ばれてた(どんどん繋げればいいのか?と確か翻訳の山形浩生氏が後書きで書いてた)
80年代末から90年代初頭の日本、所謂《バブルの時代》の自分の一番の思い出は、西武グループ・堤清二会長による文化的戦略経営を端に発する《リブロ・セゾン文化》だった。
自分には池袋の地がそのホームグラウンドとも言えあの頃毎日の様に通っていた。
あの頃、海外の現代美術や芸術が日本に入って来て西武美術館そしてPARCO、リブロ、WAVEといった店舗は単に物を売るだけでなく言わば新たな文化の潮流や流行を発信、紹介、プレゼンテーションする場所として機能していた。
それと同時にあの頃、ペヨトル工房という小出版社からバロウズを始めとするアッカー、クーパーら実験的ポストモダン文学が次々と邦訳出版されていた。
そしてキャシー・アッカーも『血みどろ臓物ハイスクール』を始め数作が邦訳された物の矢張り突然の死が影響したのかペヨトル工房から『アホダラ帝国』に続き邦訳予定だった『アイデンティティ悼想』は出なかった。
その他、大栄出版という所からsexual resistanceというレーベルでデニス・クーパー邦訳本が出てシリーズが続けばキャシー・アッカー最後の長編作品『海賊王プッシー』も出る予定だったらしい。
河出書房新社からペヨトル工房の絶版本が新たな装幀でポツポツと復刊されてるので期待して待ってるのですが。
『ヴァラエティ』キャシー・アッカー脚本という事で。
後半に行くに従い現実と幻想が曖昧になっていくと言うか、警察官の恋人や謎の男ルイは確かに存在したのだろうけど後半部分は全てクリスティーンの妄想の様にも見える。
それから後半にクリスティーンが切符売りとして働くポルノ映画館にやって来るレズビアン・カップルの一人はキャシー・アッカーのカメオ出演?チラッと顔が映ったけど短髪の金髪とかキャシー・アッカーに見えた。
ウィリアム・S・バロウズの『おかま:クィーア』がグァダニーノ監督ダニエル・クレイグ主演『クィア』としてまさかの映画化は驚いた。
日本公開も決まったので絶版の『おかま』更にバロウズ小説で最も重要な?《カットアップ三部作》のペヨトル工房からこれまた出なかった『爆発した切符』も出して欲しい処。
そしてキャシー・アッカーの小説こそフェミニズム、metooと経た今の時代にこそ読まれるべき(海外では普通に読めるので邦訳希望という事で)