「阿賀に生きる」(1992)の佐藤真監督が、1983年に36歳で早逝した写真家、牛腸茂雄の足跡を辿ったドキュメンタリー。「SELF AND OTHERS」は牛腸の遺作写真集のタイトル。
私は写真には詳しくなく牛腸茂雄の名前も知らなかった。映画では「SELF AND OTHERS」の全写真が映し出されるが、優れた写真なのかどうかも良くわからなかった。しかし、映画としてはなかなか面白かった。
映画の構成要素は、【映像】本作のために撮影した牛腸茂雄ゆかりの地の現在の風景(故郷である新潟県加茂市と大学進学から暮らした東京都調布市)、牛腸の写真作品と8ミリ映画作品、【音声】牛腸が実姉にあてた手紙の西島秀俊による朗読、テープレコーダーに残された牛腸自身の声「もしもし、きこえますか。これらの声はどのようにきこえているんだろうか」・・・。
佐藤監督は生前の牛腸と全く面識がなかったが、ある評論家から「牛腸氏と佐藤真監督のまなざしが似ている」と指摘を受け、初めて写真集を見て衝撃を受けたのだそう。
本作を観て、共通点は“撮る者の孤独感”かなと思われた。私も撮る仕事をしてきたし、その感覚は身に覚えがある。それにしても、両者の感性はあまりにもセンチメンタルだと思う。だからこそ研ぎ澄まされて、表現で昇華しないではいられなかったのかもしれない。
佐藤監督はこの後、本作と同様な不在を辿るドキュメンタリーを2本撮り、2007年に飛び降り自殺した(享年49歳)。
先日観たストローブ=ユイレ監督「セザンヌ」(1989)も、作家の作品を映し出して作家自身の言葉を朗読する形式だった。しかし両作から受けた印象は正反対で、同作からは気取りばかりが伝わってきて強い反感を覚えた。佐藤監督によるストローブ=ユイレ評を探してみようと思う。