【揺らぎ】

※ 4Kリマスター・リバイバル上映

この年末年始のリバイバル作品の目玉は「レ・ミゼラブル」だと思うが、僕が楽しみにしていたのは、この相米慎二監督の「お引越し」だ。

2023年には4Kリマスター版が第80回ベネチア国際映画祭クラシック部門に出品され、最優秀復元映画賞を受賞した作品でもあるが、1993年公開時にも非常に評価の高かった瑞々しさの残る作品でもある。

両親の離婚に直面する子供レンコの心の揺らぎが、ささやかなところから胸が締め付けられるようなところまでとても丁寧に描かれているのだ。

最後の幻想的な場面も当時は冗長だって感じていたが、レンコが少女から少し大人になる瞬間のようでとても美しいと思った。

バブル景気のなか、無機質な人間関係が広がっていたのではないかと思われる時代だが、とてもストレートな視点で親子関係を見つめた作品だと思う。

レンコ役の田畑智子さんの出世作品だと思うが、桜田淳子さん、もっと役者さん続けていたらよかったのにと考えたりもした。

この機会に是非‼️

「セーラー服と機関銃」「台風クラブ」の相米慎二監督作品。30年の時を超え4Kリマスター版となってスクリーンに戻ってきた。世界各国で高く評価された上での凱旋公開。今回一緒に公開された「夏の庭」と共に鑑賞。素晴らしい作品だった。

両親の別居に揺れ動く少女の心が躍動感たっぷりに描かれている青春ドラマ。

田畑智子がオーディションを経て鮮烈なデビューをした作品。母親役には、これが引退前の最後の映画となった桜田淳子、父親役には中井貴一が出演。俳優陣の自然体の演技に引き込まれる。役者に1人で考えさせて演技を引き出す自由スタイルで撮影に挑む相米監督のやり方。子役田畑智子の心の動きが私達観客に迫ってくる。

京都に住む明るくて元気な小学6年生のレンコ（田畑智子）。ある日両親が別居することになり父ケンイチ（中井貴一）が家を出て、レンコは母ナズナ（桜田淳子）と2人で暮らし始める。離婚届を隠したり、自宅籠城作戦を決行したり、さらに以前家族で訪れた琵琶湖への小旅行を勝手に手配してしまったり、何とか離婚を阻止しようと勝手な大人達へのレンコの抵抗が続く。子供が感じる寂しさややるせなさがスクリーンを通してヒシヒシと伝わる。そんなレンコが状況を少しずつ受け入れながら、ちょっぴり大人になっていく姿が幻想的な色鮮やかな画面で描かれていて、不思議な感覚。

2023年ヴェネチア国際映画祭で最優秀復元映画賞を受賞。オリジナルは観ていないので比較は出来ないが、違和感のない美しい画像が復元の技術の素晴らしさを物語っているようだ。

切なくて、温かくて、懐かしい。色々な思いが溢れて心に沁みた作品だった。

　部屋に置かれた奇抜な三角形の形をしたテーブルで漆場家の3人はご飯を食べている。外は暴風雨が吹き荒れ、母親と父親は一切目を合わせようとしない。この才気溢れる3分間の長回しのファースト・シーンに象徴的なように、両親の別居が小学6年生の娘にはなかなか現実として理解出来ない。学校のお昼休みには父親が横になる河原に全速力で駆けつけ、母親と父親に何とか昔のような仲の良い生活をさせようとする田畑智子演じるレンコの姿が実にいじらしい。仲の悪いクラスメイトの女子や自分に好意を寄せる男子の姿や、母親の弟とそのフィアンセの姿を見ながら客観視しようと努力するもののどうしても理解出来ない。今作のヒロインは自分の感情の喜怒哀楽を、常に行動で表現する。走ること、タンスに隠れること、引っ叩くこと、パンチすること、逆立ちすること、それらの表現は全て彼女の内面から自然に沸き上がってくる行動である。母親は「2になるための契約書」という契約を娘につきつけるが、全力で怒り狂う。ひっくり返してのパンチは忘れていたが、今もなお印象に残る。

　父親もお調子者で威厳がなく、自分の内面をまったく理解しようとしない。そのことに我慢出来なくなったレンコは自分に好意を寄せる男子の入れ知恵で家にバリケードを築く。中盤の核となるこの場面も相米監督の真骨頂である長回しが冴え渡る。父親はそれでも彼女の気持ちをわかろうとするが、彼女が大切にしていたキリンのぬいぐるみをキャッチし損ねる。相米映画では常に高低差のあるショットが緊迫感のある画面を形作る。川辺から道路を仰ぎ見る場面だったり、同級生と坂を昇る場面だったり、父親の会社へ電話ボックスから電話をする場面だったりこの高低差のあるショットがより立体的に画面を占めるのである。ラスト30分のレンコの彷徨場面は、日本映画でも屈指の映像詩である。燃え上がる松明を振り回す幻想的な場面とお爺さんとの共鳴。やがて森の中に分け入り、海辺へと辿り着く。そこにはまるでフェデリコ・フェリーニのような祝祭を帯びた海辺が拡がっている。初潮の場面の「おめでとうございます」は確かにヒロインの成長を伝える。クライマックスでレンコと母ナズナが輪唱する童謡『森のくまさん』は、この数年後に黒沢清が『勝手にしやがれ』で無意識にオマージュを捧げている。今作の4K映像はフィルムの生々しさが残る4K映像で、余白に余裕すら感じられる凄まじい色味で、30年ぶりにあの震えるような感触を味わった。