時と共にうつろう死の匂い
初の相米慎二。昭和の終わりから平成はじめの日本映画で言うと「異人たちとの夏」などでもそうだったが、どんなものでも朽ちていくものである、という自覚がある批評的な現代劇の素晴らしさが本作にもある。作品世界で描かれるノスタルジックとリアルに公開から時間が経って感じるノスタルジアがかけ合わさって日本の普遍的な感性が映像として残っている感動が強い。今作の場合、前者は塀越しにかすかに見える先生の白い傘の景色、後者はビデオカメラの映像やZARDの主題歌などがそれにあたる。
ただ、「異人たちの夏」がボディホラー的な隠し味を入れてきたのと同じように今作も単に懐古主義的なものにとどまらない演出があり、病院でのサイケなホラーは死の匂いをより際立たせている。プールのシーンの幻想的な映像も忘れられない。火葬場での長回しは淡島千景のパフォーマンスも相まって胸を打つ。
出演作は今作のみという小6トリオの初々しさと三國連太郎のおさえた演技の表現力も光る。スイカを切るとき、山下が自宅まで走り砥石を持ってくるシーンでなぜか感極まった。おじいさんがいくつも年下の子どもたちから学ぶことも多い、という示唆があるように思えてこういった豊穣な交流の素晴らしさが描かれている。
戸田菜穂の映画というより舞台のような演技など気になるところもないことはない。場面場面が飛び飛びでストーリーテリングに難があることもたしかだが、映像演出の力によって4Kでリマスターされてより綺麗な状態で観ることに意義のある映画ではあると感じた。