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キノ・ライカ 小さな町の映画館のnetfilmsのレビュー・感想・評価

3.9
 映画が出来る過程が楽しいように、映画館が出来る過程も我々シネフィルにとってはどれ程かけがえのないものだろうか?北欧フィンランドの鉄鋼の町・カルッキラ。深い森と湖と、今は使われなくなった鋳物工場しかなかった小さなその町に、はじめての映画館「キノ・ライカ」がまもなく誕生する。映画がもはや大衆の娯楽から滑り落ちて久しい我が国においても、労働者の街に作られる新たな映画館には興味・関心が尽きない。カウリスマキから愛する地元カルッキラへ手づくりの贈りものと題されるように、カウリスマキと愉快な仲間たちが作るのは、大企業による画一的だが非常に便利なシネコンではなく、20世紀的ないわゆる懐かしの名画座である。自らの手で椅子を取りつけ、スクリーンを張るのは映画監督のアキ・カウリスマキと仲間たち。メガホンを取るのはクロアチア人でフランス在住のヴェリコ・ヴィダクで、彼自身も寝食を共にし、映画館の壁のペンキを塗ったのだという。

 今や映画をスクリーンで観ずとも、配信で観られる便利な時代になったのだが、カウリスマキはそれでも映画をスクリーンでわざわざ観る為に、車やバイクを走らせるという人々の根源的な体験を呼び起こそうとする。妻と生後8ヶ月の娘を連れて、カルッキラに1年間滞在し、本作の撮影に挑んだヴェリコ・ヴィダクは、人嫌いでカメラを向けられると誰にも心を開こうとしない昔気質のアキ・カウリスマキを奇跡的にショットに収める。それがどれだけ奇跡のような出来事なのかはこのドキュメンタリーでは伝わらないが、実際心底気難しいはずのカウリスマキはヴェリコ・ヴィダクの熱量に少しだけ心を開いた。映画祭の開催まで出演を伏せたというジム・ジャームッシュの奇跡のような出演と祝辞も、『枯れ葉』を観た者にとっては、精一杯のアンサーに他ならない。不器用なシネフィル同士が、互いを介在せずにドキュメンタリーでまな板の上の鯉になりながら、互いへのリスペクトを惜しまない姿に真に胸が熱くなる。
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