パングロス

オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版のパングロスのレビュー・感想・評価

3.1
「SMAPの6人目」こと森且行のオートレーサーとしての活動を追ったドキュメンタリー。

特に2021年1月24日、福岡県の飯塚オートレース場での転倒事故で再起不能と診断された骨盤骨折から、4度に及ぶ大手術と2年余りの過酷なリハビリを経て、2023年4月6日、ホームの川口で見事に復帰を果たし勝利をおさめるまでを描いている。

おそらく今後、全ての問題が一定の解決をみた後に、本格的なジャニーズ年代記が何らかの形で世に問われることになるとは思うが、「日本のアイドルの歴史を変えた」ということではSMAPの功績は最も特筆大書されることになるに違いない。

その、かつては総勢6人いたメンバーのなかで、一人年齢が離れていた香取慎吾(1977- )に次ぐマンネラインながら、木村拓哉(1972- )と人気を二分していたとも言われるのが森且行(1974- )だった。

20年の長寿を誇った人気番組『SMAP×SMAP』(1996-2016)以前の彼らのメインレギュラー番組が『夢がMORI MORI』(1992-1995)。
その番組タイトルは、Wikipediaにも「司会の森脇健児と森口博子、そして当時SMAPのメンバーだった森且行の3人の名前頭文字に由来する」と書かれているほどである。

*1
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/夢がMORI_MORI

その森が、1996年という人気絶頂期にオートレーサーに転身したのは大きなニュースとなった。

正直、事務所に背を向けた者には容赦なかった当時のジャニーズ事務所の体制下、森且行というメンバーは「居なかったこと」にされ、過去動画、過去画像からも彼の姿は消され、当然のようにマスコミの話題になることもなくなって行った。

しかし、レーサーとして徐々に頭角を表すにつれて、スポーツ紙などで報道される機会も増えるようにはなっていた。

実際のところ、森がメンバーと再会できたのは、SMAP解散(2016.12.31)後になってからで2017年11月4日のこと。
AbemaTVの特番「72時間ホンネテレビ」で、稲垣、草彅、香取慎吾の3人との21年ぶりの再会だった。

*2
www.nikkansports.com/m/entertainment/news/201711050000092_m.html

その後も、「新しい地図」組の3人と森とは共演の機会もあったようである。

*3 香取慎吾、森且行とSMAP脱退後会わなかった理由は?「連絡取れなくてよかった」
2021.01.01 17:17
mdpr.jp/news/detail/2374824

本作には、権利関係がクリアできなかったのか、残念乍らSMAPメンバーの姿は登場しないが、森の言葉のそこここに彼らについての言及があって強い絆を感じさせてくれる。

解散後も芸能人としての活動を続けている5人も一般人のアラフィフ世代に比べれば十分過ぎるほど若さを保っていると言えるが、彼らと比べても森の年齢を感じさせない若々しさは、現役のタレント時代とやや風貌が変わったとは言え、驚異的だ。

だが、それならば本作が、オートレーサーとしての森且行のキラキラぶりを伝えるドキュメンタリーとなっているかと言うと、正直なところ、そうではないと言わねばならない。

そもそも競馬、競輪、競艇など公営賭博競技全般が、すでに斜陽産業なのだ。

そのなかでもオートレースの斜陽はかなり深刻なようで、本作で映し出されるオートレース場の設備は、とても21世紀のスポーツ競技のそれとは見えない前世紀の遺物をそのまま更新せずに使用している。

*4
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/オートレース

本作中で、あたかも美談のように語られる、森の事故による怪我からのリハビリや、選手自身による愛機の整備なども、多分に競技のあり方が前世紀で進化をストップしたままで行われていることに起因するように思えてならない。

もちろん重大な事故と選手生命を失いかねない大怪我から見事復帰を果たした森の努力と克己心は感動を呼ぶし、賞賛に値する。

だが、森を含むオートレーサーの置かれた環境は、決して手放しで褒められる状況ではないと見なければならない。

そして、あたかも5人となったSMAPが不幸な形での解散を余儀なくされ、その数年後にはジャニーズ事務所そのものが解体されることになった事実を見ても、彼ら6人全員は、世間一般のアラフィフと同じく、彼らを取り巻く環境ともども「老年期を迎えるという落日」を経験しているだけなのかも知れない。

もちろん、人びとは、それぞれにその危機を甘んじて受け入れたり乗り越えたりして残りの人生を歩む。

折しも、安泰かに見えていたメンバーNの活動休止の報に接するにつけ、自然の摂理が人に与える人生の試練は、案外平等なのかも知れないと思うことではあった。
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