覚悟はしていたが、凄まじい作品だった。
統合失調症の原因はいまだに特定できてはおらず、過度なストレスを受けたりして、神経伝達物質のバランスが乱れることが一因だそうだ。
ということは、自分や近しい人にも今後起こりうるということだ。
本作の監督の姉は小さい頃から優秀で、医師で研究者でもある父と母の影響から医学部に進み、ある日突然訳のわからない事を叫び出す。
娘に対して過度な期待を抱いていた両親は、娘に限ってこんな事が起こるはずはなく、家で休ませれば治るはずだと考える。
両親の期待こそが、彼女の精神を壊してしまう一因だったとは考えもしない。
ふたりは娘を長年に渡って自宅に閉じ込めた責任を、お互いになすりつけあっていたが、医師であるが故に自分達でどうにかできるのではという過信も、この悲劇の一因であったと思う。
母が認知症になり、外から強盗が入ってくるという妄想に取り憑かれ、それは娘が窓を開けるからだとなじるシーンは、もうこれは地獄だと胃が痛くなった。
でもそれは、妄想の世界に生きるという事で、母と娘が最も近づけた一瞬でもあった。
母が亡くなり、やっと姉は投薬治療を受けるのだが、それで信じられないくらい穏やかになり普通の生活を送れるようになる。
それは本作で、何より一番衝撃を受けたことであった。
”どうしてもっと早く治療が受けられなかったのか?”
どの家族にも、他人とは違う何らかの秘密はあると思う。
家族という一番安らげて安心できるコミュニティは、一歩間違えるとその高くて頑丈な壁に阻まれて、信じられないくらいの悲劇をもたらしてしまう。