【”再び”......今、また観るべき/向こうからやって来るには】
※4Kレストア版リバイバル上映
この作品を初めて観た時、「パリ、テキサス」を思い出したことを思い出した。とても共通するところがあると思ったのだ。
この「バクダッド・カフェ」は世界が不安定化するなか、再び、今観るべき作品ではないかと思う。
「ディレクターズ・カット版」の2019年リバイバル上映時のレビューでも書いた印象とは今でも同じだ。
あの時も世界は不安定化していた。その後、アメリカはバイデン政権になってリベラリズムは復活するかに思えたが、リベラリズム=「アイデンティティ・ポリティクス」や「ウォーク(woke(目覚めた)・リベラリズム」として、従来の労働者の利益を代表しなていないとして、トランプが再びアメリカの大統領に選出されることになった。
ヨーロッパでもどっちつかずとして中道に対する不信感が広がり、ドイツとフランスでは極右と左派が選挙で議席数を伸ばし、イギリスでは保守が負け労働党政権が誕生することになった。
ロシアはウクライナに侵攻し、イスラエルはガザ地区で殺戮を止めていない。
荒涼としたアメリカ・モハベ砂漠の中にある「バグダッド・カフェ」を旅行中に訪れるヤスミン。
ヤスミンとはどんな存在なのだろうか。
夫とけんかし、怒って自棄(やけ)になって車を降りてしまうヤスミン。
ヤスミンとは僕たちのことじゃないか。
2つの太陽(幻日)を見て、片方は映った太陽であることに気が付くヤスミン。
ヤスミンは気が付いたのではないか。
ヤスミンの見返りを求めない行動は人々の心を和ませていく。
ブーメランは戻ってくるのだ......いや、もしかしたら別の(良い)ものとして戻ってくるのかもしれない。
ただ、求めていたからこそ手に入るものもある。
だから、ヤスミンも戻ってきたのではないのか。
そして、ヤスミンにも幸せのオファーが訪れる。
やはり、人とはこうありたいとか、人として生きていくために大切なことは何かを語りかけているようではないか。
そして幸福はヤスミンが始めたマジックのようにパッとやって来るのかもしれない。
見返りを求めない。しかし、求めているから手に入るものはある。思いがけず手に入るものもある。
僕たちの人生のようでもあるし、混沌とした不安定な世界の中で人とはこうありたいと思わせてくれる作品だ。