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パリ、テキサス 4K レストア版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.3
 昼間の忙しい時間に電話のベルが鳴る。4年前に消息を絶った兄のトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)は生きているという。弟のウォルト(ディーン・ストックウェル)は心底信じられない様子で妻に話しかける。さながら身柄引受人となった弟は一路テキサスへ向かうと、すっかり痩せこけた様子の兄がいた。久しぶりの兄とのドライブ、栄養失調気味の兄を弟は寝かせつけようとするのだが、兄は1枚の写真を見せ、「パリへ行ってくれ」と伝える。そこには「パリ、テキサス」と書かれた立札が立っていた。記憶喪失の父親は4年間、はなればなれだった息子のハンター(ハンター・カーソン)と再会し、少し大きくなった彼の姿に後ずさりする。幼い息子を見つめるその表情は少し怯えているようにも見える。良き父親になるにはどうすれば良いのか?男は服屋の店員に話しかけ、金持ちの父親を演じるけれど学校の目の前で待てずに、道路の向こう側から静かに見つめている。道の端と端に分かれながらも父子は互いにおどけた表情をしながら歩き続ける。それは冒頭のテキサスの山の中での「彷徨い」とはまったく違う意味合いを持った歩行となる。そうやって移動することの意味が少しずつ変化し続ける。ヒューストンで探偵ごっこをした後、赤い車を追いかけるトラヴィスはずっとハンターに話しかけられるものの、心ここに在らずな様子で適当に相槌を打つ。

 『都会のアリス』のジョン・フォード、師と仰ぐニコラス・レイやサミュエル・フラーを育てたアメリカへの盲目的な憧憬は『ハメット』を契機として終焉を見せるかと思えたが、ヴェンダースは今作で愛憎入り乱れたアメリカへの思いを隠そうとしない。家族の長としての父親をアメリカとするならば、ここでのトラヴィスは大枠の物語を物語ることが出来なくなった父親を象徴している。困難な問題から4年間逃避し、成功の道筋すら見通せない父親の姿はどこまでも頼りなく、子供じみた父親と大人びた子供の構図は母親が見つかるまでのかりそめの結びつきを謳歌する。『まわり道』ではまだ少女だったナスターシャ・キンスキーの成長ぶりにも目を見張るが、覗き部屋の暗室でトラヴィスは向こうからこちらの姿が見えないにも関わらず、ジェーンに背を向けゆっくりと話し始めるのだ。正面切って話を出来ない男の独白は然しながら一世一代の名文句となる。男は全てを言い終えると、夜明け前のパーキングの静けさの中に佇む。安全地帯を目指してひたすら逃げ続けたはずの男は、狂った世界の中でフォード・ランチェロ58をどこまでも走らせる。そこにはかつてヴェンダースが憧れたアメリカの幻の原風景が拡がっている。あらためて大傑作!!
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