晴れない空の降らない雨

黙する者が生きし場所/黙殺~沈黙が始まったあの日~の晴れない空の降らない雨のレビュー・感想・評価

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 ネトフリ。同じ監督の『共謀家族』がなかなかに面白かったから、こちらも鑑賞したけど一層良くなっていた。殺人犯自体は早くに明かされる上、前半に大きなクライマックスとなる対決があって、「ここから1時間以上どうやって話を転がすのだろう」という意味でも観客をやきもきさせるように出来ているのがまた巧い。
 両作ともイキッた陽キャ(親が権力者)をぶっ殺して溜飲を下すタイプの、そういう意味では扇情的な話である。また「意表をつく展開→フラッシュバック」を繰り返しながら真相に近づいていく構成も共通している。エモーションたっぷりの回想が若干うざったい時もあるが、全体としてスタイリッシュな演出で魅せながらテンポよく突き進む。
 『共謀家族』も良かったけど、あちらは家族一丸となって戦う話なのに対し、こちらは主人公の親子間にも秘密や屈託がある分、話に奥行きがある。そして俳優(特に殺人犯と聴唖の娘)に独特の魅力が生まれている。「黙殺」がダブルミーニングになっているのも良し。
 ただし残酷描写もさることながら、いじめがかなり苛烈で、性暴力もあるし、全体的に胸糞悪いので要注意。

 『共謀家族』とは舞台にも共通点がある。タイ舞台の中国映画だった『共謀家族』に対し、本作『黙殺』は「太平洋のどこかの島」という設定が冒頭で語られる。が、ネット情報によれば、ほぼマレーシアで間違いないらしい。そもそも監督がマレーシア出身だとか。
 どちらにせよ、モブ以外は中国人(系?)俳優で中国語を用いた完全な中国映画でありながら、舞台だけ中国ではないという設定。まぁ例によって色々あるんだろうなと察せられるが、東南アジアのジメジメした雰囲気が本作のひとつの味になっている、気もする。
 
 茨の冠、磔、鳩、牧師などキリスト教テイストを盛りながら、内容はまったく教義に敵対しているところも興味深い。
 
 CGはもっとがんばれ。体育館での使い方は悪くなかった。ああいうマジックレアリズム風の演出、流行っているのだろうか。