~父と街とギャング、少年が選ぶ道はどこか~
「ブロンクス物語/愛につつまれた街」は、ロバート・デ・ニーロの監督デビュー作であり、脚本・原案を手掛けたチャズ・パルミンテリが自らギャング役を演じるヒューマンドラマである。舞台は1960年代、ニューヨーク・ブロンクス。バス運転手の父親(ロバート・デ・ニーロ)と、街を仕切るギャングのソニー(チャズ・パルミンテリ)の間で揺れ動く少年カロジェロ(リロ・ブランカート)の成長が丹念に描かれる。
家庭では真面目に働き、善悪をはっきり説く父。対して、ギャングのソニーは危険な裏社会を渡り歩きながら、ある種のカリスマ性や生き方の美学をも少年に見せつける。カロジェロは、父への尊敬とソニーへの憧れのはざまで揺れ動きながら、街の移民コミュニティが抱える問題や人種間の緊張にも巻き込まれていく。
おすすめのシーンは、父とソニーがカロジェロをめぐって対峙する場面。それぞれの正義と価値観がぶつかり、少年は自ら選択を迫られる。デ・ニーロとパルミンテリの静かな演技合戦が胸を打つ。
60年代の音楽に彩られたノスタルジックな街並み、ギャング映画としての緊迫感、そして父と子の強い絆といった要素が融合し、ただの犯罪ドラマに留まらない深い人間模様を浮かび上がらせている。心のどこかで「大人になる」瞬間を誰もが通る――そんな普遍的なテーマを、独特のブロンクスの空気感とともに味わえる名作と言える。