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アマデウス ディレクターズ・カットのtomひでのレビュー・感想・評価

4.0
YouTubeで世界で数人しか歌えないオペラ「魔笛」という動画を見たら、なんだかとても映画「アマデウス」を観たくなって久しぶりの鑑賞(笑)「アマデウス」を観るのは5回目(ノーマル版2回、ディレクターズカット版3回)だが、5回も観るとは思わなかった。それ位大好きな作品。

===以下ネタバレあり===

映画は精神病棟に収容されている作曲家サリエリが、神父に過去を語る形で展開される。モーツァルトとの出会いから死まで、サリエリが感じたモーツァルトの人物像と彼が創った音楽について、同時に神を信じていた自分が、神を信じなくなり神を裏切った過去を神父に語っていく。

この過去回想の映画構成が巧みで、度々入るサリエリの独白、その深い表情にどんどん引き込まれていく。映画前半、モーツァルトの楽曲が流れている所にサリエリの細かな解説が入るのだが、 天才を間近で感じていたサリエリの楽曲解説が巧すぎる…。

編集も巧い。シーンごとに使われる楽曲が決まっているとはいえ、音楽に合わせた編集が見事に嵌まっている。個人的に好きなのが書き直しがひとつもないモーツァルトの手書き楽譜に驚嘆し、サリエリが思わず楽譜を床にばら撒き落としてしまうシーン。音楽のはめ方とカットの構成、その繋が見事でマジ気持ちいい。

宮廷(陛下)と音楽家の関係って現代のクライアントワークと似ているな。先進性や芸術性よりも陛下が満足する事が何よりも重視される。当たり前と言えば当たり前なのだが、その中でサリエリは自作オペラを陛下に「史上最高のオペラだ」と称されながら、意識は陛下ではなくモーツァルトがどう思うのかに意識移動しているのが本当に面白い。

映画後半のレクイエムをモーツァルトがサリエリに口頭で伝え書かせるシーンは、この映画屈指の名シーン。頭の中にある曲をサリエリに理解させるのだが、同時に映画を観ている観客にもその曲を理解させるための音の使い方、カットの積み重ね、編集が本当に巧い。

サリエリは自分を凡庸なる者の頂と言って映画は終わるが、映画を観た人全員がサリエリを凡庸なんて思わないだろう…自分の音楽が消えていく32年間とモーツァルトの音楽が残り続けるサリエリの年月、壮絶な人生を感じさせられた。

「五線紙に閉じ込められた小さな音符の彼方に、私は至上の美を見た」
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