ジジイ

ユリシーズの瞳のジジイのレビュー・感想・評価

ユリシーズの瞳(1995年製作の映画)
5.0
初アンゲロプロス。素晴らしかった。もっと難解なんだろうなと敬遠していたがそうでもなかった。「ふたつの眼差しを出会わせ歴史と映画が交わるようにしたかった」という監督の言葉どおり、個人史と映画史とバルカン半島の歴史が見事に融合している。そしてブルーグレイの墨絵のような寒々しい画面が圧倒的に美しい。そこに配置された人物の構図、暗闇に黒々とした群衆の量感も眼に心地よく見事としか言いようがない。長回しが全く苦にならないし、その間に時代が変わり場面も激しく展開するが極めてスムーズに繋がるので、こちらは夢でも観ている気になってしまう。主演はルーマニアとポーランドにルーツを持つハーヴェイカイテル。20世紀初頭バルカン諸国で映画作りをした最初の人物、マナキス兄弟の失われた3巻のフィルムを探す監督Aの物語。カメラによって撮られた最初のショットの無垢さと純粋さ、われわれが永遠に失ってしまったかのような興奮を探す壮大な旅の記録。







以下ネタバレです。







ラストの白いフィルムは監督によれば、何も映っていないのではなく、あえて実際に撮影した映像を見せないことにしたのだと言う。マナキス兄弟という実在の人物に対して彼らの作品と称して何か別のものを見せることは偽造となるからだと。(確かにサンプルには具体的な何かが映っていた)Aの探求の目的は自分自身の発見であり、フィルムを現像することでそれは達成されており、旅の終わりに今日のサラエボでの発見に至る、それが重要であると。この圧倒的な映画に影響を受けた映像作家と作品がいくつも心に浮かぶ。
ジジイ

ジジイ