映画の尺の3分の2までが主人公ベティ(ダイアン)の願望が投影した夢であり、クラブ・シレンシオの場面を境として残り3分の1が彼女の現実が示されているのだと思われる。「楽団はいない。全て録音テープです。これはまやかしです」はその示唆のようである。恵まれた境遇、役者の才能はすぐ認められ、リタ(カミーラ)とは濃密な恋人関係に進展する。お話が都合良く転がり何となく浮き足立ったニュアンスがある中盤まで。一転して役者として芽が出ず、恋人カミーラに見捨てられ、すさんだ生活を送るダイアンの惨めな現実の終盤。シンプルなストーリーを夢や幻想、願望、現実を交錯させ、こんなに怖くて美しくて難解な映画に織り上げたリンチの芸術の才覚や恐るべし。
再鑑賞。