このレビューはネタバレを含みます
ソクーロフ監督の権力者4部作の2作目。ヒトラーを描いた1作目「モレク神」に続いて、晩年のウラジミール・レーニンを描いています。映画館で35mmフィルムでの上映にて、まさに牡牛座のシーズンに観ました。
レーニン暗殺未遂事件から4年後の1922年。脳梗塞を起こしたレーニンは、モスクワ郊外の静かな村で静養。体が不自由な上に面会も連絡も遮断され、とてつもなく孤独。時折、誰かに監視されていて不穏な雰囲気が漂います。
レーニンは史上初の社会主義革命であるロシア革命を成功に導き、多大な影響力を及ぼした革命家。そんなもの凄い権力者でソ連の最高指導者だったのに、病気をきっかけにあっという間にソ連政治局から引き剥がされて政権交代へ。レーニンの後継者のスターリンが面会に来るんだけど、いかにも次の座を狙っている様子でした。この作品はレーニンの孤独と苦しみがひたすら続くだけなんですが、牡牛座って我慢強く忍耐力のある星座だからこそ、ずっと耐えてるように思いました。
全体的にブルーがかった色合いでソフトフォーカスな感じは、レーニンの魂が抜けかかっているかのようであり、あの世に行きかけているかのようにも思えます。史実をなぞった伝記ではなく、レーニンやその周りの関係者という実在の人物を題材にした空想を交えた寓話という位置づけです。物語としては特に大きな事件があるわけではなく、権力者ではなくひとりの人間として描いてます。レーニンの人生は切り取り方によっては、かなりドラマティックな物語としても描けるだろうけど、あえて権力を失いかけていく過程の中の "何もない一日" を描くのは、ソクーロフらしいと思います。たとえ強い立場の人であっても、ちょっとしたきっかけでその座を奪われてしまうんだなと。レーニンがただの弱った老人にしか見えませんでした。ちなみに「モレク神」でヒトラーを演じていた役者さんが、ここではレーニンを演じています。まったく同じ人に見えません。顔をつくるのに5時間かかったそうです。
ラストで庭で車椅子でぼんやりするレーニンの長回しのシーン。鳥の鳴き声が響き渡り、雷が鳴り、流れる雲が映し出されます。ゆったりとした静かな時間。その間にもレーニンの脳梗塞は進行し、死が着々と近づいてきているように思えました。ちなみに、死後のレーニンの遺体はエンバーミングで防腐処理を施されて、レーニン廟で展示されているそうです。