結構重たい。冒頭は妻を"家畜"と言い虐待する主人を悪として展開するが、徐々に必ずしも主人のみを悪としない。経緯はあれど半身不随の老人に対する2人の扱いもひどく、かわいいはずの子どもにとってあの家庭環境が良いはずがなく、また皮肉なことに子どもは両親に反して封鎖的な考えの主人に通じる性格であるようだ。むしろ主人をもっと強固にした人間といえるかもしれない。悪は悪を生み出すのだろうか。倫理に反するなかれという教訓を中心に、自分で選ぶことに慎重であれ、それは破滅に向かっているかもしれないのだと諭す。菊豆と天青の不幸は出会ったときの状況だ。しかしあの状況でなければ2人は出会わなかった。そして姦通は咎められても菊豆と天青のお互いへの思いは本物だったと思う。醜い中にも本物は生まれ、そして有無を言わせず奔流に呑み込まれていく…。多重な暗喩に満ちた作品だった。