青乃雲

ローズマリーの赤ちゃんの青乃雲のレビュー・感想・評価

ローズマリーの赤ちゃん(1968年製作の映画)
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ロマン・ポランスキーという人は、たぶん本当にやばい人のように思うのは、撮った作品の内容からではなく、その語り口に表れる屈折のようなものによる。

いっぽう、私生活でこれこれこういう人だからといって、作品がその性格や行いを直接的に反映している訳ではないというのは、表現する者/表現されるものとの関係においては常識かと思う。

けれど、ポランスキーがハリウッドに呼ばれて監督した第1作がこの映画ということを思うとき、運命がキャリアを導くのかキャリアが運命を作るのか、そんなことをつい考えてしまう。

本作を撮って、時代の寵児となった頃のポランスキーを、タランティーノは『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)で描いており、1969年当時の妻で妊娠中だったシャロン・テートが、カルト集団マンソン・ファミリーに殺害された「シャロン・テート殺害事件」を、同作においてタランティーノ風に(事実とは異なるかたちで)描いている。

この映画は、そうした事件をどこか予兆するような内容にもなっており、オカルトふうに考えてみるなら、ポランスキーという人の内的な屈折が、外的な事件を引き寄せたような印象さえある。話の筋としては、リドリー・スコット監督『プロメテウス』(2012年)で、エリザベス・ショウ博士が辿った運命にやや似ているようにも感じる。

1968年公開のカラー映像は、初めこそ彩度と粒子が少し気になるものの、10分も経てば忘れてしまうくらいに美しく撮られている。ポランスキー作品の室内の描写は、いずれの作品においても美しく感じられ、キッチンの配色やリビングの奥行きや物の置き方など、素晴らしいセンスのように思う。

そして、主演のミア・ファローが、すべてのシーンに渡ってチャーミングで美しく、美しさとホラーの関係性についても思いを馳せたくなる。『シャイニング』(スタンリー・キューブリック監督, 1980年)で、その美しさを担っていたのは息子のダニーだったように。

こうした描写や、私人としてのポランスキーの性格などを総合的に踏まえたときに、ロリコン趣味の変態が、オカルトを撮ったというふうにも見えるものの、では、この頃のこの人以外に、ロリコン趣味の変態性を発揮して、これほどのオカルト作品を誰が撮りえただろう?とも思う。

少なくとも、そのことを指摘するどんな言葉よりも、この作品のほうが素晴らしい。

原作は、1950〜1960年代に起きた「サリドマイド薬害事件」を元にしている。けれど、そうした具体的で社会的な事象と結びつけた解説に、納得する感覚を僕はまったく持ち合わせておらず、作品から立ち上げられているのは、性を媒介とした生への屈折のようなものだった。

生きることを、どこか呪いのように引き受けている人間にしか撮れないこの感覚。

悪魔に蹂躙されるように、呪われて生まれる命を、闇の中で明かりを灯すことなく生きていく。ポランスキーにとって監督をするということは、そうした姿を撮ることだったのではないか。
青乃雲

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