『紅の豚』の制作が終わりに差しかかった頃、宮崎駿監督はぽつりと言った。「ブタと来たから、つぎはタヌキかな・・・」と。当人によると「ブタ、タヌキ、キツネ、ネコ。だからブタのつぎは狸と決まっている」のだそうだ。
ちなみに本作にはキツネも出てくるし、ネコは『耳をすませば』に登場する。だから、ちゃんと繋がっているのである(笑) しりとりで映画を作ってしまうなんて、とても痛快! 人気原作に縋るしかない映画人にはうらやましい話。
高畑監督はこのムチャ振りを戦後、国土開発の犠牲になったタヌキたちの物語として応えた。が、私は正直あまりおもしろいと思わなかった。理由はふたつ。キャラに魅力がないのと、あと〝減り張りがない〟という点である。
前者は好みの問題があるので致し方ない。問題は後者だろう。タヌキたちのテンションはどれだけ人間に負かされても落ちないのだ。だから、どこがヤマかもわからない。
これは例えば『ニューシネマパラダイス』で〝前半のにぎやかな観客の笑い声が、静かな後半に響いてくる〟のを考えると、わかると思う。本作の場合は悲壮感を強く押し出すことで、そこはクリアできたはず。
しかしそれをこの名監督がわからなかったとは思えない。そして今回観て、やっと気がついた。どんな状況にあっても落ち込むことのないタヌキたちの明るさを表現するために、物語の起伏をあえて犠牲にしたのだと。
陽気に生きることが何より大事——これが本作を通して監督がいちばん伝えたかったと思うのだ。なぜなら、こういった問題はいつの時代にも存在しているものだからだ。
現在では、海面上昇で国家消滅の危機にさらされている南太平洋の島国の人々が、タヌキたちと同じ苦難に喘いでいる。彼らはできるなら、二酸化炭素排出をやめない先進国の連中を化かしてやりたいと思っているかもしれない。
しかし、そんな過酷な状況でも笑顔を絶やさずに生きることが何よりも大切だと、本作は語っているのだ。
1994/夏 ナビオ阪急三劇場(北野劇場・梅田劇場・梅田スカラ座)のいずれか
[オリジナル音声+英語字幕]2024/11/05 Max (US)
P.S. ちなみにタヌキたちを明るく描いたもうひとつの理由は、ひょっとしたら前々作『火垂るの墓』にあるのかも。つまり「『トトロ』を観て温かい気持ちになったあとに突き落とされた」と言われたことへの反省など・・・