「よく聞くんだ。物事の解決に人を殴るな」
「人を撃てばいい?」
「(無言でビンタする)」
世界一気まずい食卓。封印したはずの過去がジワジワと蘇る。口では語らずとも目で語るヴィゴ・モーテンセンが恐ろしい。平穏な空気がどんどん不穏になっていく。濡れ場の対比も、変化が顕著に可視化さてていい演出だった。いつだって、平穏な日常を壊すのは暴力なのだ。
静かな暴力が描かれる。派手じゃないのに、生々しくて身の毛がよだつ。描写はクローネンバーグにしてはかなり抑えめだった。
あまりにも慣れた手つきで容赦なくぶち殺していく主人公にドン引く家族。隠していても察しはつくし、闇社会の連中に狙われるしで後には引けなくなる。
暴力は許されないが、誰かに向けられた暴力から守るために暴力を行使することは許される。ダイナーで店員たちを守って英雄になった様に。けどこの作品は、トムの暴力の裏側にある"過去"が見えたからドンヨリした空気が漂い続ける。本来なら悪を倒したら痛快だし盛り上がるもんだけど、この作品は悪を倒していく度に後味が悪くなっていく笑。
悪を返り討ちにする時は怖さもあるけど"よくやった"っていう爽快感があるんですが、物語としては暴力を振るう度に片鱗が垣間見えてしまい今までの関係性がどんどん崩れていくから心地が悪い。その人が殺し屋だったと知ってから今まで通りに接することは出来るのか?家族のままでいれるのか?これは暴力と嘘で物事を解決してきた人間の宿命であり、末路なのだろう。どれだけ善良な市民になろうとしても、本能には抗えない。本性は変わらない。これはトムを通じての人間の本能から暴力を切り離すことは出来ないというメッセージなのだろうか。
ラストの余韻、めっちゃいいな。完全に前みたいに戻るのは不可能としても、家族としてやり直せるのか。