ストーリー冒頭のピントの合わないぼやけたシーンの連続。
昏睡状態から目覚めたときのあのふわふわとした不思議な感覚。
今までに全身麻酔で手術を受けた人にはわかるであろう、あのもやもやとした視界と、目覚めているのに思考がうまく働いていないような、もどかしく戸惑いを感じさせる景色、せわしなく動く人々、遠くから聞こえる声、何もできない自分。
お風呂に入れてもらうシーンや、車椅子で移動する時に感じる目線の高さの違い、リハビリ器具、わたし自身の入院中の記憶、病院のにおい。
事故にあったときのことを思い出す。
イギリスのことわざに
To put yourself in someone's shoes
というのがあるけれど、
まさにそういう作品だと思う。
かわいそうだとかすごいとか、わたしはそういう断片的な言葉では彼をあらわせない。
彼は自分の将来を悲観したし、自分を哀れみ、悲しみ、泣いた。
一方で、抜群の想像力でもって、彼は何者にでもなれたしどこにでも行けた。
彼の立場に身を置き、考える。
彼の家族に寄り添う。
彼の周りで支える人たちの存在を、ありがたいと思う。
息子との電話で涙する父親の姿に、感情を揺さぶられる。
ロックインシンドロームを潜水服に例えたのは、その言葉選びは、すごく、すごく的を得ていて、素敵だし、おしゃれとも違うんだけど…なんだかわたしはとても好きです。