似太郎

泥の河の似太郎のレビュー・感想・評価

泥の河(1981年製作の映画)
4.7
小栗康平の第一回監督作品で全編モノクロによる哀切極まりない映像美で綴られる戦後の子供たちの屈折した詩情を豊かに描いた名編。大阪のドブ川に面して浮かぶ小舟のシュールな造形が素晴らしく、アジア映画ならではの幽玄さを醸し出している。原作は宮本輝の小説。

子役の使い方が全くクサさが無くて安心した。ジメジメとした邦画特有の陰湿さもたしかにあるが、基本的におセンチに流されない冷徹な視点が冴えていた。主人公の子供がこっそり覗く大人たちの歪んだ世界を戦後ならではの貧乏臭さで包み込み、愛でるように描いた伝統的な邦画の良さというものがある。

低迷していた80年代邦画の中でもマトモな方で、往年の木下恵介や新藤兼人の作る貧困映画などを彷彿とさせるやるせなさに満ちた一作であり少年期のトラウマや別れなどに言及した品格あるジュブナイルものとしては最高峰に位置する作品。その年の映画賞を総ナメにした「戦後ララバイ」とも言うべき庶民への鎮魂歌でもある。
似太郎

似太郎