櫻イミト

バンパイア・ラヴァーズの櫻イミトのレビュー・感想・評価

バンパイア・ラヴァーズ(1971年製作の映画)
3.0
レ・ファニュによる吸血鬼小説の古典「カーミラ」(1872)の三度目の映画化。斜陽期の英ハマープロが新機軸として打ち出したヌード&セクシャル路線の第一弾。主演は「鮮血の処女狩り」(1970)でバートリ伯爵夫人を演じカルト化したイングリッド・ピット。監督は「ノックは無用」(1952)のロイ・ウォード・ベイカー。

18世紀オーストリア。スピルスドルフ将軍(ピーター・カッシング)は美女マルーシカ(イングリッド・ピット)を預かり屋敷に滞在させるが、それ以来、娘のローラが体調を崩し遂には変死してしまう。マルシーラは消え去り、やがて似たような経緯でハートグ男爵の屋敷に滞在、ミラーカと名乗り娘エマを誘惑し始める。美女の正体は滅亡したはずのカルンシュタイン家の吸血鬼カーミラだった。。。

ハマープロとは思えないヌード&レズビアンのエロティック描写、斬首のゴア表現に、本作にかける気合を感じた。後期ハマープロでは秀作の部類に入ると思う。

しかし「カーミラ」の映画化前二作、「血とバラ」(1961)「女ヴァンパイア カーミラ」(1964)と比べてしまうと、原作の魅力である耽美性・悲劇性に欠けていた。イングリッド・ピット(当時32歳)は存在感を発揮しているが、原作カーミラの見た目は被害者たちと同世代の19歳ほど(吸血鬼なので衰えない)なので、この設定の違いが印象を大きく変えている。

大きなマイナス点が吸血鬼の親玉らしき黒衣の男の存在。最初から最後まで意味ありげに顔を出すのだが、一体誰なのか謎のまま終わってしまう。つまりは話のカタが付いていないということになり、ホラー映画としては致命的なミスと言える。

本作は1970年10月にイギリス本国で公開された。先駆けて同年、ユーロ・トラッシュの二大巨頭=スペインのジェス・フランコ監督が「ヴァンピレス・レスポス」(1970)、フランスのジャン・ローラン監督が「催淫吸血鬼」(1970)と、エロティックなレズビアン吸血鬼映画を撮っている。ヨーロッパで同時多発的に女性吸血鬼ホラーが制作されたことには注目しておきたい。

※1970年、日本でも女性吸血鬼映画「幽霊屋敷の恐怖 血を吸う人形」が公開されている
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