ムビ太郎

もののけ姫のムビ太郎のレビュー・感想・評価

もののけ姫(1997年製作の映画)
5.0
この世界は不条理で溢れている。
その不条理と共に生き続けること。それが人間であり、すべての生命に課せられた使命なのかもしれない。

ジブリの中で耳をすませばが1番好きだったけど、久しぶりに観るともののけ姫半端ない
オールタイム1位になってしまったかもしれない。

この映画の1番のテーマは「不条理とどう向き合って生きるのか」だと、僕は個人的に感じた。
アシタカは東と北の間から来たってタタラ場でエボシ様に言ってたから蝦夷の一族なのでしょう。カヤが持たせたお守りも黒曜石を打製で削ったみたいなものだったし。朝廷の干渉も受けず、独自の占いや文化が根強く残った平和な村の少年だった。でもある日、祟り神が山から出現し、それを退治したことでアシタカは自らの右腕に呪いをかけられてしまった。めちゃくちゃ理不尽だよね。だって村を救った英雄なのに、自分が祟られてしまうんだよ。

タタラ場、女王エボシ様。
彼女は本当に優れた指導者だね。人徳もあり、最先端技術を取り入れ、人民を守るために神殺しも厭わないという超リーダー向きの人物。
タタラ場で製鉄を担当する女性たちのバックグラウンドとか、エボシ様が匿う病人達の言葉とか、、「エボシ様は私を人として見てくださった方だ」アシタカも自分で言っていたけれど、エボシ様に手をかけたからといって、何も変わらない。憎しみが憎しみを呼ぶだけ。
エボシは女性や病人の不条理を包み込み、受け入れてきた。受け入れるからこそ、新たに開拓し、自分たち人間が生きていく道を築いていかなければいけない。
立場と責任があるからこそ、子供じみた発想はしない。現実的な判断を下す。だからこそ、シシ神の森は、人間たちに森を焼かれ、獣は殺される不条理を経験する。

シシ神の森のサン。
個人的には猩々達がサンと山犬に石を投げつけるシーンがすごく胸に刺さる。
「シシ神様戦わない。ワシら死ぬ。山犬の姫平気、人間だから。」
この直前に、アシタカに、そなたは美しい。と言われて人間としての自分を再認識したサンに、無情すぎるこのセリフ。自分は山犬だと自分に言い聞かせる。だって私はあの人間に生贄にさせられた、あの人間が憎い。でも自分は人間なんだ。
自分の認識と周囲の認識、サンのアイデンティティはどこにあるのか?ここに彼女にとっての不条理がある。自分の居場所がわからないって、これほど感情を言語化するのが難しいものはないと思う。

なんていうか、結局今の世の中もそうだけれど、全てがwin-winの世界ってきっとないんだよね。誰かのために行ったことが、他の誰かを苦しめることになることだってある。その苦しみは「悪気」を伴わないからこそ、不条理であり、理不尽な痛みなんだ。生きるという活動には必ず不条理が伴うという最大の不条理に、私たちは巻き込まれながらも、共に生きることは出来ないのか、ということを考え続けていかなければならないんだろうなって思います。きっと答えはないのでしょうね。
ムビ太郎

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