ALBAのOdyssey

ベンジャミン・バトン 数奇な人生のALBAのOdysseyのレビュー・感想・評価

3.6
~年齢を逆行する男の不可思議な運命、人生の儚さと美しさを映し出す~

「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」は、F・スコット・フィッツジェラルドの短編を原作に、デヴィッド・フィンチャー監督が実写映画化したヒューマンドラマである。主人公のベンジャミン(ブラッド・ピット)は、老人の姿で生まれ、時が経つにつれて若返っていく数奇な運命を背負っている。普通とは真逆の時間を生きるベンジャミンが、街の人々や家族、そして愛する女性デイジー(ケイト・ブランシェット)と交わる中で、人生の喜びや喪失を濃密に体験する物語だ。

映像面では、メイクやVFX技術により、ブラッド・ピットが老人から青年へと徐々に“若返って”いく様子が圧巻で、最初に観たときの違和感や驚きが物語の世界観にうまく溶け込んでいる。一方、監督特有のダークさは控えめで、クラシカルなアメリカの風景と人生の切なさをじっくりと描き出す雰囲気が印象的。

おすすめのシーンは、ベンジャミンとデイジーが互いの年齢が“釣り合う”一瞬の時期を分かち合う場面。彼らは永遠には続かないその時間を、かけがえのない幸せとして慈しむが、やがて悲しい別れの予感も漂う。
深く叙情的なテーマを抱えながらも、人生とは愛や思い出で彩られる美しい冒険であると説いてくれる作品。ベンジャミンの不思議な運命を通じて、人間の時間の儚さと尊さを改めて感じさせる名作である。