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不安は魂を食いつくす/不安と魂の作品紹介

不安は魂を食いつくす/不安と魂のあらすじ

ある雨の夜、未亡人の掃除婦エミは近所の酒場で年下の移民労働者の男、アリに出会う。愛し合い、あっという間に結婚を決める彼らだったが、エミの子供たちや仕事仲間からは冷ややかな視線を向けられる。年齢や文化、肌の色、何もかもが異なる二人の愛の行方は。ダグラス・サーク監督作『天はすべて許し給う』(55)の物語を下敷きに、愛に起因する苦悩や残酷さを鮮やかに描き出した不朽の傑作。ベテラン女優、ブリギッテ・ミラとファスビンダーの愛人であったエル・ヘディ・ベン・サレム(本作の公開直前に事件を起こし服役、後に獄中で死亡。ファスビンダーの遺作『ケレル』は彼に捧げられている)による名演が圧倒的で、アキ・カウリスマキ監督らに影響を与えたとされる。第27回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞。

不安は魂を食いつくす/不安と魂の監督

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

原題
ANGST ESSEN SEELE AUF
製作年
1974年
製作国
西ドイツドイツ
上映時間
93分
ジャンル
ドラマ

『不安は魂を食いつくす/不安と魂』に投稿された感想・評価

3.9
 強い雨が降りしきる夜、雨宿りのために老婆はある酒場に立ち寄る。ドアを開けた瞬間、奥のカウンターから老婆に向けられた好奇の目。ここはミュンヘンの大通りに位置しながらも、モロッコ移民たちが夜な夜な屯ろする酒場であり、BGMにはモロッコの流行歌が流れている。老婆はその様子にぎょっとしながらあえて奥のカウンターには座らず、入り口のドアのすぐそばにある丸テーブルに陣取る。奥から注文を取りに来た愛想のない女店主にコーラかビールかと聞かれ、コーラを選択した女は、この空間を一刻も早く立ち去りたい気持ちに駆られている。奥のカウンターでは女が黒人の男をベッドに誘うが、男は立たないからダメだと一蹴する。自らの勃起不全を臆面もなく堂々と話す男はジュークボックスの曲を変えて、ゆっくりと老婆の後ろへと周り込みながら、彼女の左側に立ったところで「一緒に踊りませんか?」と優しく声をかけるのである。こうして年老いた女と勃起不全の移民男性とは偶然出会ってしまう。

モロッコ人男性はダンスにエスコートするような優しさをもって、老婆を大雨の降る中、家まで送ることになる。おそらく60歳を超えているだろう年老いた女はさっきまでは今にも酒場から飛び出したい衝動に駆られていたが、男のエスコートに満更でもない素振りを見せる。部屋に上がってコーヒーでも飲んだらという大胆な誘い方が出来るのも、夫と死別し、3人の子供を育て上げたことから来るある種の達観に違いない。彼女はそこでポーランドから右も左もわからないドイツへ来た際の苦労話を同じくモロッコから来た男に話しかけるのだが、男の表情は今ひとつ冴えない。理由を聞けば明日は早朝から仕事があり、今すぐに帰らなければ終電に間に合わないんだと話す男に対し、老婆は「泊まっていけば」と声をかけるのである。2人は酒場で踊ったチーク・ダンスでお互いの気持ちを感じ取り、男は何と出会ったその日に老婆の部屋に宿泊する。男は眠れないと言いながら彼女の寝室のドアを勢いよく開けることになる。ファスビンダーはあまりにも通俗的で昼ドラのような物語の中に、2人のありえないような運命の出会いを滑らかな絹糸のように丁寧に描写するのである。難民問題やドイツ人の強烈な人種差別の主題は初期の『出稼ぎ野郎』の頃からその萌芽は見られたものの、その表現形式の平易なメロドラマ化にはかつての面影は見るべくもない。

降って湧いたような男女の恋。それは身分も人種も階級もライフスタイルも年齢すらも違う男女の恋であり、その差異がたちまち2人の間に障壁となって立ち現れる。老婆の暮らすアパートメントの住民たちの好奇の目、管理人の息子の忠告、常連だった向かいの商店の店主の嫌がらせ、彼女の働く掃除婦の職場での迫害。冒頭、明らかに階級の違う寂れた酒場で向けられた好奇の目が、日常に溶け込もうと努力する老婆と黒人男性をなかなか溶け込ませてくれない。肌の色の違い、年老いた女が若い男と付き合うことへの軽蔑・嫉妬、あらゆる感情が入り乱れた他人様の衆人環視の目は、老婆が手塩にかけて育てた息子たち、娘をとっても例外ではない。ここでふいに登場した娘クリスタ(イルム・ヘルマン)とその夫オイゲン(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)により、徐々に変調をきたしていくファスビンダー劇場が幕を開ける。まだ30代40代の若さで再婚ならば、ある程度納得出来たかもしれない子供たちは、母親に緊急会議の名目で招かれた部屋で、彼女が大病を患ったのだと邪推している。そこにドアを開けて入ってきた背の高い黒人の男性を見た時、子供たちは呆気に取られた表情でその事態をただ見守るしかない。ここでの息子の極端な逆上ぶりが鮮烈な印象を残す。彼は母親の態度に激昂し、脚でブラウン管テレビを破壊する。そのヒステリックな行動にはファスビンダーの分裂気味な心情が顔を覗かせている。

言うまでもなく今作はトッド・ヘインズが『エデンより彼方に』でリメイクしたダグラス・サークの『天はすべて許し給う』を下敷きにしている。ファスビンダーのダグラス・サーク愛はアンチテアター解体後の71年に始まり、1本の論文を書き上げ、当時ルガーノの別荘で悠々自適の生活を送っていた伝説の名監督に直接会いに行き、何時間にも渡ってインタビューをするほどサークの映画に惚れ込んでいた。『四季を売る男』以降、何度も繰り返された愛と搾取の二重構造はここでも健在である。周囲の差別には屈しない姿勢で一緒になったはずの、身分も人種も階級もライフスタイルも年齢すらも違う男女が、彼らを取り巻く差別的な視線に神経をすり減らし、最後には2人の関係性までをもボロボロにしていく。その中でも異彩を放つのは、彼女たちが中盤訪れたかつてヒトラーも愛した高級レストランでの光景だろう。一番高い料理を注文した2人は、注文が通ったことの安堵感からしばしその場にフリーズし、それぞれに虚空を見つめている。その光景を隣の部屋からドアフレームを通してロング・ショットで据えた画面の何とも言えない冷徹な眼差しを今でも忘れることが出来ないでいる。差別を助長しているのは、自らの自尊心に過ぎないとようやく気付いた2人の永遠の愛の先には、更なる困難が待ち構えているのである。

余談になるが、今作でモロッコ人移民を演じたアリ(エル・ヘディ・ベン・サレム)は当時のファスビンダーの同性愛パートナーであり、かけがえのない存在だった。モロッコ出身の彼をパリのゲイ向けサウナで見つけたファスビンダーはすぐに一目惚れし、求愛しミュンヘンへと連れ帰る。俳優でもなく、ドイツ語も話せない黒人男性を初めて自らの映画の主役級の役柄で出演させたのが今作であった。だがサレムには酒乱の傾向があり、今作完成後に呑み屋で酔って暴れた男は3人の男性を次々に刺し、指名手配された男は逮捕を恐れてすぐさまドイツを離れた。ファスビンダーに許可も取らず、フランスへと逃げるように去っていく。結局フランス当局に逮捕されたサレムは独房で自殺する。後に彼の独房での最期を知ったファスビンダーは強い衝撃を受け、遺作「ケレル」を亡き最愛の男だったエル・ヘディ・ベン・サレムに捧げている。かけがえのない友人でありパートナーを突然失ったショックから、ファスビンダーは徐々に麻薬へと手を染めていく。このことが後に悲劇を迎えることになるとは当時はまだ誰も知る由もない。
【不安な時にはクリネックス】

1974年の作品ですけど、世界はあまり変わっていない、あるいは、悪くなっていると感じてしまいます。
掃除婦として働く孤独なドイツ人老女と、外国人労働者である若いモロッコ人。
年齢、人種、文化、風習を超えた愛。
そこから生まれる、不安と苦悩。
世間からの冷たい眼差し・差別・嫌がらせ。
もう泣きたくなります、グスン、グスン。

ダイバーシティに対して寛容にはなっているが、分断しつつあるこの世界では、新たな不寛容が生まれている。
そんな不安を僕たちの魂に問いつくす。
今観ても強烈なインパクトを与える、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品を観つくしたい。
5.0
アキ・カウリマスキが影響を受けたことが得心出来ると同時に、多くの人がファスビンダーの最高傑作に挙げるのが頷ける作品。

夫をなくし、清掃員として生活している貧しくとも誠実な女性エミが、自分の子供くらい歳下の、出稼ぎのムスリムの男アリと出会う。アリもとても誠実な人間だが、親子ほどの歳の差、肌の色、を理由に2人への周りの目はとてつもなく冷たい。その2人の困難な愛の行方を追った物語。

エイジ・ハラスメントって、もっとも話題になってなくて、もっとも多くやられてる気がするんだよねー😔前も書いたけど、若い時にかなり年上の女性と結婚した開明獣の友人は、随分とひどいこと言われてたし、開明獣の先輩は、二回り以上歳下の女性と結婚して、奥様が一時メンタルおかしくなるほど、心ない発言をされたそうです。

一番こたえたのは、親友から「わあ、勇気あるねー。応援するよ!私は生理的に無理だけど」と言われたことだそうです。なんとまあ、無神経な言葉の暴力なことか💢旦那さんである先輩は、「君が親友だと思っていた人は残念ながら、"自分は人の本質は見てません"って自ら暴露している愚か者だから、気にするな」と仰ったそうです。全く仰る通りだなあ、と😔

といいつつ、うちのムスメちゃん(24歳)が、開明獣と同い年(59歳)の外国人の男性を連れてきて、「アタシ、この人と結婚するからー❤️」って言われたら、正直、ショックだとは思います💦エラソーなこと言っておいて、なんだオマエはー😡って言われても仕方ないね、しょんみり🥺

でも、最終的には反対しないし、祝福するよ。そして、その相手のことも理解するよう努めるだろうし😌万一、「エイガハ、キライダカラ、ミマセーン」て言われたら、流石にアタマに来て、飲み物に下剤入れちゃる!!ってなるかもしれんけど💦開明獣、身体はデカいが、人間は小さくて、再びしょんみり🥺

年齢、性別、人種、色んな違いは消えることなく存在していて、問題は、それを普通に受容出来るような社会になるかどうかだよね。およそ50年も前に、その問題を取り上げて、見事な社会派のヒューマン・ドラマに仕上げたファスビンダーは、やはり天才なのだと、改めて認識させられました😌

時代を先取りした普遍性を描いた本作は、学校の授業で取り上げられてもおかしくないと思います。

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