shunsukeh

コントラクト・キラーのshunsukehのネタバレレビュー・内容・結末

コントラクト・キラー(1990年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

アンリが、仕事場のランチで他の同僚がわきあいあいとする中、一人別の席で黙々と食べている姿は、彼が他者との関係性を上手く結べないでいることを示している。母国フランスで上手く過ごせなかったことが彼をそうしたのか、彼がそうだからフランスを出たのかは分からないが、彼はイギリスに渡って、公務員の職に就いて15年経っている。この仕事は、同僚との関係性が破綻していても、やってくる書類を片付ければ何とかやっていけるものだったようだ。その職の解雇を告げられた彼は、迷うことなく自殺を実行する。それは失敗するが、彼にとっては、上手く築けない人間関係を容認され、居場所と仕事を与えられる職場を再び見つけることは、とても、困難に思えたのだろう。結局、死にきれない彼は、殺し屋のエージェントに自分を殺してもらうことを依頼する
アンリの自殺の決意を変えたのは、パブで会ったしがない花売りの女マーガレットだ。一目惚れだった。アンリがマーガレットへの恋に落ちたのは、その姿形もあるだろうが、しがない仕事でも、それで懸命に生きていこうとしている姿だったのではないか。その姿は、あっさりとアンリの自殺願望を消し飛ばしてしまった。しかし、自分を殺す依頼のキャンセルは出来ず、殺し屋がアンリに迫る。
殺し屋は末期癌で余命僅かなことを宣告されている。別居している妻と娘がいる。彼が、請け負ったアンリを殺す仕事を死ぬ前にやり遂げることに拘ったのは、仕事に対する真面目さだけではなく、僅かでも家族のために金を残すためだったのかも知れない。しかし、彼がアンリを追い詰め銃を構えた次の瞬間、彼は自分にその銃口を向け引き金を引く。その理由の一つは、既に依頼人が望んでいない仕事を契約に従うだけの機械のように行うことへの虚しさがあったのだろうと思う。そして、もう一つ思いつくのは、死を目の前にした殺し屋は、だからこそ、生きていることは素晴らしいという強い思いに至っていたのではないだろうか。そんな彼は、マーガレットとの人生に希望を持って生きたいと望むアンリを眩しく思ったはずだ。彼はアンリを殺せなくなっただけでなく、アンリの目の前で死んで見せ、もう、「死にたいなんて思うな」という無言のメッセージを送ったのではないだろうか。
ラストシーンでマーガレットが乗ったタクシーがアンリを轢きそうになり、寸前で止まる。彼は、しばらくは、死から遠ざけられている運命のようだ。
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