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アンチクライストのKAKIPのレビュー・感想・評価

アンチクライスト(2009年製作の映画)
4.3
記録用
ラース・フォン・トリアー監督作品。
鬱三部作の一作目。
夫婦は営み中に目を離した子供が事故で亡くしてしまった。
その自責の念から心を弱ってしまった妻をカウンセラーの夫が治療しようとするが、、。

トリアーは幼少期、無神教で自由にやりたいことをさせるという教育の元に育った。
しかしいつしか自由であることが自由ではないと感じ禁欲的であるキリスト教の教えに惹かれていく。それが自身の制約された作風へと繋がっているのだろう。
このことは「五つの挑戦」で語られている自由であることが罰であるということにつながってくるだろう。

トリアーの思想は禁欲的なキリスト教の価値観からすると肉欲や性欲は悪であるとそして表面上のミソジニー的思想が見え隠れしているような節がある。
そして舞台がエデンという森に途中から移るので旧約聖書の失楽園でイヴが堕落しアダムをそそのかしたことにも由来するだろう。
女性性そのものが悪であるというなんとも批判されそうな内容となっている。

しかし夫であるウィレム・デフォーも妻に対して高圧的で抑圧的であり家父長制であると同時に三位一体の父と子、人と神の関係のメタファーである。

題名はアンチクライストであることからこのような関係にも否定的であるとみえる。
トリアーはのちにキリスト教をやめ無神論者になっていることから二つの思想の側面からのアンチクライストを叩きつけているのではないだろうか。

現に悪魔の眷属であるような狐が「Chaos Reigns 」と話すシーンがあるがまさにこの映画を表しており全ての二面性が存在するのが世界でありどちらかが善であり悪であるという単純な二元論ではないということ。
「キングダム」のEDでも「善も悪もあることを心得よ」と毎回決め台詞を言うが元々根底にあるテーマの一つなのであろう。

子供を失うことになった自責の罪に悩まされている夫婦に対し軽い偽善の言葉をかけることが必ずしも救いになるとも限らないと考えていているのかもしれない。
まさにこの前にうつ病で治療をしていたトリアーだからこそこの映画を通して本人なりの「うつ状態への救い」としてポジティブに答えを示したのかもしれない。


これらの話を一種の寓話そしてホラーのようにスタイリッシュな映像と共に演出しているので最後まで飽きずに見ることができる。
さすがにキリスト教圏の会見では第一声に記者から「あんたイカれてるのか?」と言われたことは致し方ないのかもしれないが。

そしてやはりイングマールベルイマンの「叫びとささやき」の影響がみられる。
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