人生に求めることと、愛にできること。
本作が、初のミヒャエル・ハネケ監督作でした。
GEOでレンタルしたにもかかわらず、途中で再生できなくなってしまい、結局中古のDVDを購入することになった思い出深い作品です。
長年連れ添う老夫婦、妻であるアンヌ(エマニュエル・リヴァ)が半身不随となってしまい、車椅子生活が始まったのをきっかけに、夫のジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)が自宅で介護をするようになるといった内容です。
本作を一言で表すなら、「生き地獄」という言葉がしっくり来ます。
健康という土台が崩れることで、これまでの生き方や姿からは離れてしまい、否応なく老いを自覚し、死を望むに至ってしまう過程は、観ているこちらの心も擦り減らしていくようで、画面を直視したくない気持ちでいっぱいになりました。
所謂、老老介護の現実と言うべき、穏やかに生活してほしい、そのためにできることがあるならしたいと思う気持ちはあれど、身体は年齢とともに衰えていっているため、自分の身体である筈なのに、思うようにサポートできない辛さを見ることができました。その生々しさたるや、俳優の身体と演技が如実に物語っていました。
ジョルジュの行動は、一貫して「愛」が前提にあるというのも、胸を打たれるポイントでした。
最初に結末は提示されていますが、その真なる意味合いがわかってくる興味深さ、突き付けられる命題の大きさは、脚本の勝利だと思います。
他者との関わりの描写にも常に緊張感があり、客観的な視点や見解と、抱えている内情との間に生じる葛藤は、簡単には表現し得ない感情を呼び起こさせました。
それは怒りなのか、悲しみなのか、哀しみなのか、はたまたそのどれでもないのか。兎にも角にも顳顬から指を離せなくなるという、不思議な状態のまま鑑賞することになりました。
濱口竜介監督の『偶然と想像』(主に、第一話である『魔法(よりもっと不確か)』)を観た際にも思ったのですが、自分が言語化できない感情をドラマとして提示することの意義性というのは思っている以上に価値の高いものであり、それを作品にできている、成立させていることはもっと褒められていいことでしょう。
その意味で、本作はそういったことを実現させている作品として素晴らしいと言わざるを得ません。
総じて、老老介護という深刻な問題を真摯に、生々しい地獄として切り取り、そのうえで愛について語った良作でした!