Kuuta

ちょっとフランス風のKuutaのレビュー・感想・評価

ちょっとフランス風(1949年製作の映画)
3.9
知ってるサークに一気に近づいた。
「悲しみは空の彼方に」の原題Imitation of Lifeのように、「あんたなんか映画の中のイミテーションよ!」と吐き捨てるドロシー・ラムーア。虚飾に生きる人間を描いたサーク的主題のど真ん中を行っている。アメリカ亡命後の作品。

完璧主義者の映画監督と、彼がスカウトしたフランス人を装う女優を巡るコメディ。互いに嘘を振り撒いて映画の完成を目指すが…。

劇中劇に始まり、現実と虚構を往来する。オスカー受賞監督が日常生活では何度も立ち位置を修正されるのが笑える。フレーム内フレームや鏡を使った演出も増え始めた。やたらと家に花や写真が置かれているのも、サークの泥沼地獄の完成が着実に近づいている。

映画内映画に登場する照明が現実にも置いてあったり、サーカスの舞台を客席から見せる場面にも照明が映り込んだりしていて、双方の世界にヒビを入れている(「社会の柱」に続く米国サーカス描写。当たり前かもしれないがビジュアルは圧倒的にこちらが豪華)。

エピローグのファーストショット、部屋の外から見た窓枠と、ピアノの蓋+支える棒で女優を二重のフレームで囲む。ピアノに女性を閉じ込めるフレーミングは「間奏曲」でもやっていた。舞台性を強調しながら、次のショットでカメラは室内に移り、擬似的なフレームは消える。監督とのやり取り(練習していた芝居)はセリフか本音かわからない。カメラが価値判断を下すのではなく、曖昧な2人をただミドルで撮る。このドライさ。

(キスする姿で暗転と思ったら、それを見届けるプロデューサーの表情を挟んでいた。April, April!でも、一番話を引っ掻き回した母親がことの顛末を呆然と見送るショットを入れていた。悲しみは空の彼方のラストでは神視点?の俯瞰を入れていたのを考えると、まだ話を閉じる気がある初期作)

濃密な演出が続く後年の作品が好みなので、詰めの甘さは感じた。特に、先述した「あんたはイミテーションだ」という最重要シーン、セリフと切り返しで済ませたのはもったいなかったのでは。
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