本作は当時青年だったコリン・クラークという人物の回顧録である。彼はハリウッドに憧れを抱き、マリリン・モンローやローレンス・オリヴィエというトップスターに出会い、そして映画界の実情を知っていく。言わば観客が映画界に抱く想いと非常に近い視点を持っている。さらに、彼は第三監督という「雑用係・何でも屋」だ。だからこそ、どの場面においても登場できるという利点がある。この人物を物語の中心に据えたことが、本作の最大の勝因だろう。
彼とモンローの距離感がいい。オープニングでスクリーンに映るモンローを見つめる彼。彼女の姿は、あまりにも煌びやかで、手の届かない存在である。しかし、撮影所にいるモンローは違う。映画界で居場所が見つからず、苦しみ、悩み続ける。そんな中で、まだ映画界に染まっていない青年と距離を縮めていく過程が微笑ましい。
モンローに扮するミシェル・ウィリアムズが最高に魅力的だ。気分屋で情緒不安定でわがままと捉えられるかもしれないキャラクターだが、陰気な印象は全く受けない。心の奥底にしまい込まれていた無邪気な明るさが解き放たれる場面は、まさに太陽のような輝きを放っている。それでいて、最終的には彼女はスターとしての立場を崩そうとはしない。
手は届いているのに、彼女を掴むことはできない主人公。叶わぬ恋であり、振り回されているとは分かっていながらも、それでも彼女に恋をしてしまう。エンディングでは、再び彼はスクリーンに映るモンローを見つめている。あの7日間の日々は夢や幻だったのだろうか。そんな苦みを心に留めながら、青年もこの業界で成長していくのだろう。
本作をさらに味わい深いものにしているのは、オリヴィエが映画界の新旧交代を自覚する過程も同時に描いている点だ。演技法の違いにより対立していた2人だが、彼女のスター性を見せつけられ、時代は変わったことを確信する。そんな彼が試写室から立ち去る姿が切なさをさらに倍増させているのだ。