ミッキーマウス・シリーズ初のテクニカラーであり、シリーズ最高傑作と言われることも多い逸品。例えばノーマン・マクラレンも世界のアニメーション・ベスト5に本作を挙げている。何がそんなにすごいのかを理解するには観るしかないし、ただ観ればいい。暴力的なまでのアニメーションと色彩の洪水でお腹いっぱいの8分間である。これをテレビの1話の長さでやられたら胸やけしそうだ。
本作では、ミッキーと同じかそれ以上にドナルドダックが主役である。
もはやミッキーには何ら不真面目なところはない。彼はあくまで指揮者としての役割を全うしようとする。もちろんその演技にはコミカルな仕掛けがたくさんあり、滑稽味がある。しかしそうしたギャグの数々も、あくまでミッキーが真剣に指揮を行おうとしているから面白い。つまり、ミッキーは自ら面白いことをやるようなキャラではすでになかったわけである。デビュー作から爆発的人気を獲得したミッキーは、たちまち世間(特に母親たち)という検閲官に監視されるようになった。ミニーに無理やりキスをして振られたり、動物の尻尾をつかんで振り回したり、刑務所でふざけたあげく脱獄したりすることは、1931年には早くも難しくなっていたようである。
ただ、最初期に比べると遙かに真人間な本作のミッキーに対しても、現代人の感想をみると「怒りっぽくて怖い」「性悪」などと言われている。ここからさらにソフィスティケートされていったんだなぁ。何だかなぁ。
そういう事情もあって、グーフィー、プルート、そしてドナルドダックといった脇役たちにスポットライトが当たるようになる。ドナルドダックの初出はシリーシンフォニーの『かしこいメンドリ』だが、以前ミッキーが担っていた汚れ役を演じるために呼ばれたわけである。そして彼は己の役割を完璧にこなしており、実質的に本作の主役である。ただ、まだこの頃は絵がアヒルっぽい。面白いことに、本作でミッキーたちの『ウィリアム・テル序曲』を邪魔してドナルドダックがフルートで吹く曲は『オクラホマミキサー(わらの中の七面鳥)』。『蒸気船ウィリー』で演奏されたあの曲である。