何からも逃げて、いいかげんで、どっちつかずでいられた最後の年。
あの頃がいちばんキラキラしてたーー。
「南瓜とマヨネーズ」「夜空はいつでも最高密度の青色だ」「佐々木、イン、マイマイン」など、センチメンタルなおしゃれ邦画は大の苦手。
だが本作は、気障な自己陶酔感ーーダメな自分に酔ってる感じーーが弱かったせいか、ポエミーなクサい台詞がなかったせいか、さほど抵抗なく鑑賞できた。
繊細な映像表現に、魅力的な役者たち。
たとえば「オーバー・フェンス」(原作者が同じ)のオダギリジョーはかっこよすぎてダメ男に見えなかったが、本作ではちゃんと、ダメなやつはダメなやつに見える。見てて腹立つくらいに。
共感できない人物にも感情移入させてしまうというか、その人なりのロジックや心理がちゃんと見えるのは、映画のつくりが丁寧だからだと思う。
映画ならではの表現法を駆使したいいシーン、上手いシーンがたくさんあった。
あっただけに、小説そのまんま、みたいな興醒めのナレーションが惜しかった。
そこは映像で表現してほしかった。
最後は、あと数十秒手前で終わって欲しかった気もする。
近年になって再評価され、作品が次々と映画化されている作家・佐藤泰志氏の同名小説が原作。
何度も芥川賞候補となった作家だが、もし受賞していたら自死することはなかったのだろうか、などと、考えてもしかたのない「もしも」を考えてしまう。
彼の人生は悲しい結末を迎えてしまったが、その繊細さや生きづらさがあったからこそ数々の名作が生まれたのだろう、と思うと何とも複雑な気持ちになる。
1982年に書かれたこの作品が、彼の死後数十年を経て映画化され、いまなお若者の共感を呼ぶとしたら感慨深い。