めしいらず

アクト・オブ・キリング オリジナル全長版のめしいらずのレビュー・感想・評価

3.8
1965年にインドネシアのスカルノ政権にクーデターを起こし誕生した軍事政権が右派勢力に命じた共産主義者狩りによって100万人以上が虐殺された「9月30日事件」。加害者たちはその時の英雄と讃えられ地元の名士として地方を牛耳り、恐怖政治による支配は続いている。これは加害者たちにあの時のことを取材し、それに基づいて彼ら自身の出演による再現映画を撮影していくバックステージが記録されたドキュメンタリー映画である。惨たらしい殺害方法や被害者たちの様子を加害者たちは誇らしげに語り、カメラの前で嬉々として再現して見せる。自分たちは勇猛だと英雄視して悪事を働いた認識は皆無であり、批判的な眼差しが向けられるなどとは微塵も思っていない。街行けばおべんちゃらに囲まれ、抵抗できない商店主から金を巻き上げる。人間はここまでなれるのかと観ていて本当にへこたれるほど。しかし彼らが再現映画で加害者役を演じ、時に被害者役を演じるうちに、その中心人物が見せ始める変化。おそらくその人物は本来は善人だったのだろうし、命じられやむなく従ってきただけなのだろう。そして彼は己の恐るべき罪業に気づいてしまった。彼のその後の人生の呪われた行く末を予感させて幕を下ろす。観るのが辛い映画であるけれど私たちが知っておくべき歴史だろう。巨大な魚のオブジェや滝の前で踊り子が舞う場面の幻想美が圧倒的。被害者側から描いた姉妹編「ルック・オブ・サイレンス」も観たい。
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