ひろぽん

万引き家族のひろぽんのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.1
高層マンションの谷間にポツンと取り残された今にも壊れそうな平屋に、治と信代の夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の4人が暮らしている。彼らの目当ては、この家の持ち主である祖母の初枝の年金である。それでも足りないものは、万引きで生活をまかなっていた。底辺の貧しい家族だが、なぜかいつも笑いが絶えず、口は悪いが家族仲よく暮らしている。冬のある日、治と祥太は、近隣の団地のベランダで震えていた幼いゆりを見かねて家に連れ帰る。体中傷だらけのゆりを見て、信代は娘として育てることに。だが、ある事件をきっかけに家族はバラバラに引き裂かれ、それぞれが抱える秘密と切なる願いが次々と明らかになっていく。果たして万引き家族の行く末はどうなるのかという物語。


貧困、万引き、日雇い、労災、リストラ、年金不正受給、児童虐待、育児放棄、貧困による教育格差、DV、誘拐、JKビジネス、障害者の風俗通い、死体遺棄、血縁関係etc.....
現代社会のあらゆる問題をある家族を通して問題提起が成され、丁寧に描かれる社会派の作品になっている。

家族全員が血の繋がりはなくとも一般的な家族同様にボロ屋で擬似家族として仲良く生活をしている柴田家の光景がとても微笑ましくて良かった。全てが明かされるで本当の仲の良い家族なんだと思っていた。

擬似家族の一人一人が自分の居場所を求め、愛に飢え、愛を求めていた事が彼らの生活を通して最後に分かる。ただ、ボロ屋で万引きをして生計を立てていたのではなく、家族を通してその辺にありがちな普遍的な社会問題を体現している。

痛みが分かる者同士が身を寄せあって生活しており、そこには生きるために必死で法を守るとかモラルの欠片もない加害者側のリアルな日常が描かれておりとても新鮮だった。

貧困に苦しみ、底辺の生活から抜け出す術もない者たちの生き様や社会の現状はとても厳しいもので見ているだけでも辛くなる。それでも、共同体を築き楽しそうに生活している彼らを見ているとなんだか温かい気持ちになる。それとは対比されるように、登場する裕福そうな血の繋がりのある家族の方がなんだかぎこちない。裕福な家庭の方が物が少なくシンプルで整理整頓されている。貧困家庭の方が物で心を満たそうとしているんだろうな。

終盤は上手くいくのはずがないこの家族の幸せをただただ祈っていた。終盤にそれぞれの本音が語られるシーンがとても重苦しい。


信代が取り調べを受けている時に、
「捨てたんじゃない。拾ったんです。
誰かが捨てたのを拾ったんです」
という発言はとても考えさせられるものだった。「盗む」と「拾う」という概念は表裏一体なんだと思う。

学校に通い始めた祥太が『スイミー』の話と自分自身を重ねている点が良かった。今も国語の授業であるんだなと思うとなんだか嬉しい気持ちになる。駄菓子屋のおっちゃんに万引きがバレ、罪意識を感じた辺りからの祥太の自問自答で葛藤していく姿を見ると、やっぱり小学校の道徳の授業って大切だったんだなって思う。自分で考え答えを出してもがいていく様が人間らしくて好き。

ベランダで孤独にひとり遊びをしているリンの描写で終わるラストは寂しさとなんとも言えないやるせない余韻が残る。愛されることを知った彼女の未来に幸あれ。


この作品を通して今の日本の見えない現状への問題提起が強く感じられた。“万引き”は差ほど重要ではなく、それ以外のものに焦点が置かれている印象。今作は育ってきた環境によっても捉え方や感じ方が違うのだろうなと思う。まともに育てられてきた人ほど共感できないんだろうな。世の中の家族のカタチは様々で正解は無いのかもしれない。

メインから脇役までキャストがとても豪華で実力派の俳優が多く一人一人素晴らしい演技だったと思う。全員素晴らしいが特に信代を演じた安藤サクラは圧巻だったし、登場シーンは少ないが印象深い駄菓子屋の店主を演じた柄本明の存在感も凄かった。何よりも本当の家族に見えてしまうリリー・フランキーや樹木希林が凄すぎる。

面白いというより色々と考えられる作品だった。
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