りょう

バーニング 劇場版のりょうのレビュー・感想・評価

バーニング 劇場版(2018年製作の映画)
3.8
 2024年3月に日本で劇場公開された韓国の映画に「ビニールハウス」という作品がありました。まだ観ていませんが、能登半島地震で自宅を失った被災者がビニールハウスで避難生活を余儀なくされているところで、あまりにタイミングが悪いなと…。「コンクリート・ユートピア」なんかは2024年1月5日が初日だったそうです。どちらも韓国の格差社会をテーマにしていたので、この作品を観ながらイメージしました。
 そんなことばかりを連想していたので、「なんともつかみどころのない物語だな」なんてズレた視点で観てしまいました。大学で文学を修了しても定職にないジョンス、自由奔放でありながら精神的に不安定なヘミ、なぜか裕福で素性も人格も不明瞭なベン、その三角関係の顛末は…と思っていると、中盤からミステリアスな雰囲気になって身構えてしまいました。あらすじでも説明されていたのに、ちょっと迂闊でした。
 ベンが「ビニールハウスを燃やす」と言っていたことのメタファーに気付くとゾッとしますが、それだけではすべての展開につながらないので、ところどころジョンスの妄想もあったと理解できます。何が伏線で、それがどこで回収されたのか(されなかったのか)わからないままですが、そういう構造を不穏な雰囲気で描写しているところは、さすがの表現力だと思います。登場人物のセリフにもありましたが、ベースとパーカッションを中心とした劇伴が文字どおり低音の心地いい楽曲でした。
 主人公が執筆した小説の物語が現実と混在しているかのような構造は、フランソワ・オゾン監督の「スイミング・プール」に似ています。あの作品も解釈に委ねられていて、当然にすべて解明できないようになっていますが、その思考の過程も含めて映画の魅力だと実感します。
 ちなみに、ラストシーンでドキドキしたのは、「本物のポルシェ911を燃やしてしまうのか…?」ということでした。2回目が面白そうな作品なので、そういう下世話な観点を排除して、伏線とメタファーの解釈に挑戦してみようと思います。
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