幽斎

悪魔はいつもそこにの幽斎のレビュー・感想・評価

悪魔はいつもそこに(2020年製作の映画)
4.4
Disney+お花畑ばかりで大人が見ないと20世紀フォックスを敵対買収。Amazonは名門Metro-Goldwyn-Mayerを買収、立派にHollywoodの仲間入り。Netflixの良さは「金払い」確認ですが皆様の視聴料(笑)。「地面師たち」破格の契約が話題を呼んだが、民放ドラマの主演のギャラは1時間約100万円。Netflixは1時間1000万円!。Netflix映画。

本作もハリウッドの上を往く豪華さ。主演Tom Holland、Netflixの狙いは彼の「スパイダーマン」ギャップ狙い。レビュー済「TENET テネット」Robert Pattinson。見た目悪い奴はBill Skarsgårdと私の好きなJason Clarke。Chris Evansは拘束時間の長さに辟易して降板、代わりが「キャプテン・アメリカ」繋がりでSebastian Stan。女性陣はレビュー済「Swallow/スワロウ」Haley Bennett、レビュー済「アンダー・ザ・シルバーレイク」Riley Keough、レビュー済「ナチス第三の男」Mia Wasikowska等。Netflixは監督のチョイスが名前に頼らない主義だけど、Antonio Campos監督、誰?(笑)。

プロデューサーはJake Gyllenhaal。姉のMaggieと設立した「Nine Stories Productions」製作。原作はアメリカを代表するスリラー作家Donald Ray Pollock、彼が上梓した「The Devil All the Time」本人がナレーションも務める。原作は新潮文庫で読了済、人間の原罪を問う暗黒文学として愛と信仰の真実を問う。ノワールの最終到達点と絶賛された作風は、鬼畜文学のJack Ketchumを上書きしたと、私も心から称賛したい。

Pollockの作品は出身地オハイオ州をフィールドとした作品群、テーマは「Hillbilly」山で暮らす白人、閉鎖的なコミュニティで余所者を入れない排他主義、宗教に根差した価値観で生きる。国は異なるがレビュー済「イニシェリン島の精霊」の様なプロット「Poor White」白人の低所得者層に対する蔑称、最近は社会秩序から逸脱して生きる人達と散々な言われ様。Jennifer Lawrence主演「ウィンターズ・ボーン」同じセンテンス。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

秀逸なのは地元を良く知る原作者がナレーションを務める事で「ヒルビリー?、何の事やねん」日本人に馴染みの薄いプロットも、Pollockが語れば昔話を聞いてる錯覚も覚え、妙なリアリティも感じる。虚構と事実を絡めて描くので、此のプロダクションを選択した監督は中々の才人。次作「ザ・ステアケース 偽りだらけの真実」評判良いので、U-NEXTで(Netflixちゃうんかい(笑)。Knockemstiffは実在するが、冒頭から排他的空気感に支配され、余所者は洩れなくイジメられる。Skarsgårdの全方位が敵だらけ。ソレに拍車を掛ける心的外傷後ストレス障害。トラウマを抱え宗教にのめり込み破滅する。

成長したTom Hollandも狭いコミュニティから迫害を受ける。田舎って宗教しかない、的な描き方は逆差別と思うがヒルビリーの実態がソウらしいので何も言えない。SNSなら「キモイ奴」晒してスカッとするが炎上しても所詮、仮想空間の戯言。閉鎖的だとヤバい奴も熱心な信者と一人前扱する自己矛盾。私は京都人ですが、閉鎖的な世界で視野狭窄で性格の歪みも暴走するのかもしれない。京都人のイケズも同じ?←違うわ!(笑)。

登場する牧師はプロテスタント、神父はカトリック。プロテスタントは保守的で中絶に反対、アメリカの最高裁でレイプされて妊娠しても堕胎してはイケないトンデモ判例も出た。象徴する様に本作の女性は徹底的に「無抵抗」。母と娘が揃ってダメ男に惚れるのは可愛い方、圧倒的な男社会のコミュニティで、女性は躊躇なく男を支える。同時に窮屈さを感じる平衡感覚は有る。ソコに付け入る隙が有り、宗教に燃える男が美しく見えてしまう。自己肯定感の低さこそ「悪魔はいつもそこに」。

狂気を終わらせたのもTom Holland。秀逸なのはバラバラのプロットが最後に収斂され、コレでメデタシメデタシで終わらず、忘れちゃイケないのは本作がスリラーと言う事。ベトナム戦争の結末は日本人の私達も知ってる。結局、彼は父親と同じ道を辿り此処へ帰って来る。閉鎖的な故郷は、果たして彼を温かく迎えてくれるだろうか?。秀逸なのは「White Trash」大統領選挙の争点にも為る「白人の生き辛さ」見事に可視化。白人だけで理想郷を作る事は絵空事だと見事に論破した。ソノ解釈は言い換えれば私達の住む街、働く会社、家族や配偶者、友人達との関係、皆同じに見えた。私はEXクリスチャンですが、悪魔は居ると信じてる。しかし、ソレは人間が見せてる真理だと思う。

白人の敵は白人の無常観「The Devil All the Time」文字通り悪魔は何時も其処に居る。
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