垂直落下式サミング

帰ってきたムッソリーニの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

帰ってきたムッソリーニ(2018年製作の映画)
3.5
1945年に死んだはずのイタリアの独裁者ムッソリーニが、現代のローマに甦った。売れない映像作家は、彼を利用してドキュメンタリー映画を撮ろうと思い立つのだが…。
イタリア映画お得意のパクってローカライズ。猛るドゥーチェが再活性。墓からよみがえった動く死体は、現代に何を思う?
元ネタ『帰ってきたヒトラー』と違うのは、地中海ギャルたちの肌露出多めなお色気シーンが豊富なところ。ムッソリーニさんは、女を口説くのが上手かったそうな。へー、そーなんだ。
もろパクリのユルい感じで物語が進行していくが、クライマックスのテレビ出演のところが壮絶。ナチズムとは違う、黒シャツ党のファシストとしての考え方がここで述べられており、その内容は現代におけるタカ派思想の有り様と重なるような部分も多く、なかなか興味深かった。
革新!革新!と古い教養に敵意むき出しなねちっこい陰湿さに満ちていたヒトラーとは違い、ムッソリーニ統帥はわりとカラッとした陽気なやつだし、伝統文化と同時代性を共存させる融和政策を図っていたとか。
資本家と労働者という持つものと持たざるものの上下の分断はなんとなくわかりやすいが、黒シャツ隊が煽っていたのは横の分断。
頑張ってる人は偉い!怠け者はつるし上げろ!みたいなマインド。政策に従わないものは石投げてオッケー!貧乏人には面と向かって努力不足だって責めたったらエエねん!みたいなタイプですね…。あー、最近多いよね、こーゆー輩。
個の幸せより、全体の繁栄。労働生産性とか、利益を最大化するためにとか、そういった合理的な判断の先にあるのは、きっとろくでもない社会なんだろうなってのは、よくわかりました。
しかし、古代ローマを夢みようとも、所詮は貧乏国の指導者っすわ。残念ながら、ムッソリーニにはヒトラーやナチスのようなスター性はない。よみがえったかつての指導者が、イタリアに大旋風を巻き起こす!って絵面に説得力が足りなかった。
やはり、ヒトラーは別格なんよな。ムッソリーニや東條英機は、あくまでも二次大戦の敗戦国の指導者なのであって、独裁者としては格が一段落ちる。人類史の大悪党にはなりきれない。
ムッソリーニという人物が、どういった考え方を持っていて、またその思想のポテンシャルがなぜ広く知られるに至らなかったのか、そういった歴史的背景も踏まえながら鑑賞するのが吉。