菩薩

春を告げる町の菩薩のレビュー・感想・評価

春を告げる町(2019年製作の映画)
5.0
「復興」とは何か?と問われれば、おそらくそんな問いが為される事が終了する事を意味し、復興などと言う語句自体が消滅する事を意味するのだと思うが、それは被害の当事者では自分だからそう思うのであって、おそらくそこに答えらしき物は無いのではないか。もし自分があの劇の演出家であれば、あの紙にはその語句を使用しない。

理想論と現実論の衝突があって、精神論と肉体論の衝突があって、他人と自分との衝突があって、地域と個人との衝突があって、過去と未来との衝突があって、ある者は怒り、ある者は泣き、ある者は口をつぐみ、ある者は語り、そして笑う。例えば「戦争を知らない子供たち」なんて曲がヒットしたのは戦後から25年後のことであり、今は戦争を知っている大人の方が少なくなって来たわけだが、それを忘れてはならぬと、必死に語り継ごうとしている。この先廃炉が終わり、帰宅困難地域も無くなり、全てが完了したところで、我々は震災を知らない存在として生きていく事は出来ない。だがそれで良いのだと思うし、各々が抱えたこの記憶がいつかは薄れ、やがて忘れさられていくその日こそが、その人にとっての完了の瞬間なのだと思う。

10年、20年後、成長したあんちゃんはこの作品を観て何を思い、何と答えるだろうか。そんな事が楽しみでならないのは、自分だけでは無いと思う。春はこの先何度だって、この町にも訪れる。
菩薩

菩薩