絶対の客人

DAU. ナターシャの絶対の客人のレビュー・感想・評価

DAU. ナターシャ(2020年製作の映画)
4.0
この映画の何が凄いかって、ウクライナの廃墟に1950年代の全体主義時代のソビエト連邦を再現した「物理工学研究所」を建設し、その1万2000平米もある巨大なセットの中で、役者やエキストラ約1万人以上が、当時の衣装や通貨やシステムで、1950年代の人間になりきって2009年〜2011年の2年間、実際に生活していたという!
 
「研究所」…というからにはもちろん研究施設なワケで、役者の中にはガチで有名な科学者が何人もいて、この研究施設で本当に研究していたらしいし、科学者だけではなくアーティストや秘密警察の人間までがこのプロジェクトに参加し、このセットの中で生活していたらしい。
 
そしてもちろん、2年も住んでればその中の住人同士が愛し合うこともあるし憎みあうこともあり、実際に結婚も出産もあったという話♪
 
とはいえ映画の撮影自体は始まる前に事前に発表されていて、何も知らされずに隠しカメラ等で普段の生活を勝手に…ということは決してなかったらしいから、人道的な配慮はなされていた…とはいえ!このプロジェクトがイカれてることには変わりない♪
 
ちなみに「全体主義」とは、政府に反対する政党の存在を認めず、また個人が政府に異を唱えることを禁ずる思想または政治体制の1つ…とWikipediaからの抜粋♪要はソ連が完全なる独裁国家だった時代を、この巨大な映画セットの中に完全再現し、その中にキャスト陣を2年間住まわせながら映画を製作した…という、完全に常軌を逸したプロジェクトだった!
 
さらに今作の【ナターシャ】はプロジェクトの第一弾であって、この先まだまだ何作も続編が公開され続けていくらしく、既に【Degeneration(変性)】が発表されている。
 
 
感想としては、「何を見せられてるのか解らない」という意味での酷評も十分理解できるし、実際物語に伏線回収もオチもなく、大喧嘩やSEXなど、ただそのとき起きた出来事を淡々とリアルすぎるほどリアルにみせていくため、ストーリー性は限りなく乏しい。
 
ただこれが全体主義国家ソ連での日常だと考えて見てみると、そこに伏線回収やオチを求めること自体がナンセンスだし、ストーリー性の無いこと自体がストーリーだということも理解できる。
 
そしてその全体主義という体制下において、誰かを愛するという誰もがごく自然に持ちうる感情すらも政府によって管理され、監視される日常がどういうものだったのかを知るという意味でも、この実験的な映画製作には十分意味があったし、個人的にこういう作品は超好き♪
 
このプロジェクトを企画し実際に製作に踏み切った監督を含めた製作陣も素晴らしいが、それに参加した役者陣には賞賛しかない!
 
誰にでもオススメできる作品ではないが、ぜひ多くの映画ファンの感想を聞いてみたい作品♪